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2018.05.14

WING

NAA決算、二期ぶりの増収増益を記録

営業収益・経常益・当期純利益で過去最高更新

 成田国際空港会社(NAA)が発表した2018年3月期決算によると、発着回数が増加したことや旺盛な訪日需要などを成長ドライバーとして、営業収益は前期比6.4%増加した2312億円となり、営業利益が12.5%増えた466億円、経常利益は16%増加した432億円、当期純利益は41.7%増加した359億円と、増収増益を記録した。NAAの夏目誠社長によれば、「連結決算における増収増益は、2016年3月期以来、二期ぶり」のこと。「営業収益、経常利益、当期純利益は民営化以降、最高となった」という。
 当期純利益が前期比41.7%増と大きく伸びているが、これは「特別利益に厚生年金基金の代行返上益133億円を計上しているため」と説明。ただ、「仮にこれ(代行返上益)がなかったとしても、当期純利益は開港以来の過去最高となる」という。
 夏目社長は昨今の成田空港を取り巻く環境について、17年度の航空機発着回数は2.7%増加した25万2000回となったことを説明。「韓国、香港線などを中心としたアジア方面の新規就航や増便などにより、増加した」との見方を示した。その上で、「成田空港の航空ネットワークも着実に空港機能強化に取り組んできたことや積極的に路線誘致活動に取り組んできたことで、夏ダイヤからの就航都市数は133都市となり、開港以来、過去最大となった」とコメント。「成田ハブ化促進インセンティブや成田空港マーケットインセンティブも、ネットワーク拡大に大きく寄与している」との認識を示した。
 開港以来、過去最高の就航都市数を記録するなど、ネットワークの拡大および航空機発着回数増加の背景には、旺盛な訪日需要があって、その風に乗って「成田空港の旅客数も着実に増加している」とコメント。ちなみに昨年、一年間の訪日外国人旅客数は2869万人(JNTOまとめ)と過去最高を記録しており、成田空港においても訪日外国人旅客数が大きく伸びている。
 そうしたなか成田空港における17年度の旅客数は前年度比3.3%増加した4094万人と、4000万人の大台を突破。3期連続で開港以来、最高値を更新した。全体旅客数のうち、国際線旅客数が3.3%増加した3348万人で、国内線は1.6%増加した1370万人だった。
 国際線のうち、外国人旅客数が実に11.5%増加した1594万人に達しており、同空港の成長を下支えするかたちとなっている。また、日本人旅客数も1.6%増加した1370万人と増加したが、乗継便を利用する通過客については17%減の384万人と、大幅に減少している。
 
 空港運営事業、訪日効果で増収増益
 営業収益6.4%増、費用減等で営業利益56%増

 営業収益2312億円のうち、主軸の空港運営事業の営業収益は1.5%増加した1068億円。航空機材の小型化に伴う機材重量の減少はあるものの、航空機発着回数が堅調だったことから空港使用料収入が前期並みをキープ。さらに、旺盛な訪日需要等を背景に国際線外国人旅客数や国内線旅客数の増加等に伴い旅客施設使用料収入が増収となったことが貢献した。
 同事業の営業利益は空港施設の修繕・点検維持費や水道光熱費が増加したものの、年金資産の運用収益改善に伴い退職給付費用が減少したこと等により営業費用が減少し、56.0%増の67億円となっており、結果として増収増益となった。

 リテール事業、営業収益15.6%増の911億円
 訪日需要拡大が寄与、新店舗オープンも

 旺盛な訪日需要などを取り込むことで、経営の大きな柱に成長したリテール事業においては、国際線外国人旅客数の増加や前年度に開業した店舗の通年化、到着時免税店や第1旅客ターミナルビル出国手続き後エリアの新規店舗オープン、販売促進施策の効果等により物販・飲食収入、構内営業料収入が増収となり、営業収益は前期比15.6%増の911億円となった。
 この事業の営業利益は、売上増に伴う商品仕入原価の増加や「成田空港マーケティングインセンティブ(旅客制度)」に伴う販売促進費の計上等により営業費用の増加があったものの14.1%増の255億円となり、増収増益を確保している。
 

 

 施設貸付業、営業収益・利益とも前期並み
 鉄道事業も前期並みの水準

 施設貸付業の営業収益は前期並みの302億円。営業利益は燃料調整単価の上昇による水道光熱費の増加や「成田空港マーケティングインセンティブ(貨物制度)」に伴う販売促進費の計上等があったものの、減価償却費等の営業費用の減少により、前期比1.6%減の139億円とほぼ前期並み。
 また、鉄道事業の営業収益は29億円、営業利益は6億円と、ほぼ前期並みとなっている。

 

 18年度見通しは増収減益予想
 17年度計上の代行返上益なく純利益18.4%減

 2018年度の見通しとしては、営業収益が6.1%増加する2455億円と増収を予想。利益面でも、営業利益が6.2%増加する495億円、経常利益は7.1%増の463億円、当期純利益は18.4%減の293億円と予想している。前述したように、17年度は特別利益として厚生年金の代行返上益133億円を計上していたため、18年度の当期純利益見通しは減益予想。ちなみに、17年度の代行返上益分を除いたとすると、18年度の当期純利益は民営化以降の最高を更新する見通しだ。
 夏目社長は18年度について、「発着回数はオーストリア航空のウィーン線など、フルサービスキャリアの新規就航や日本航空のグアム線増便、LCCを中心にアジア方面の新規就航や増便などが見込まれることから、国際線は前期比2%増の20.3万回と予想している」ことを明かし、「(国際線発着回数は)4期連続で最高値を更新する」との見通しを示した。
 一方、国内線発着回数は「前期並みの5.4万回とみており、17期連続で最高値を更新する」と予想。「国際・国内をあわせると、前期比1.6%増の25.6万回となり、7期連続で開港以来の最高値を更新する見通し」にあることを明かした。
 過去最高を更新する発着回数に伴って、旅客数も増加予想。17年度に4094万人と、初の4000万人台を突破したことを好材料に、18年度は更に4.8%上乗せした4292万人の旅客数を見込む。
 夏目社長は「国際線旅客数は、ハワイ方面に日本人旅客数の増加が見込まれるほか、外国人についても中華圏、韓国、東南アジア方面を中心とした旺盛な訪日需要の増加が見込まれることから、5.8%増加する3542万人が見込まれる」と説明。一方の国内線は「前期並みの750万人が見込まれる」とし、「国際・国内をあわせた旅客数は4.8%増の4292万人と、4期連続の最高値となる」見通しだ。

 

 現中期計画、財務目標は全てクリア予想

 そうしたなかNAAは現在、2016-18年度を対象とする中期経営計画の真っ最中。今年度は計画最終年度となっている。現計画では最終年度である今年度の数値目標として、連結営業利益490億円以上、連結ROA5.5%以上、長期債務残高4500億円前半、長期債務残高/連結営業キャッシュフロー6.2倍以上とするなどといった、財務目標を掲げてきた。
 夏目社長は「18年度通期予想を踏まえて、18年度において、全ての指標において達成できる見通し」にあることを明かした。

 

 国際就航都市数、中国・東南アが想定より伸びず
 国内線は20都市で目標達成

 夏目社長は計画達成に向けた18年度の取り組みのうち、ネットワーク強化について、「国内線は今年9月に長崎と結ばれることから目標20都市を達成するが、国際線は現在115都市となっていることから、引き続き、成田ハブ化インセンティブなどの活用により、路線誘致活動を進めていく」と説明。また、LCC各社の中長期的な成長にも応えていくため、第3ターミナルの混雑緩和対策を実施するとともに、21年度末を目処に増築することで抜本的に能力を増強していく」との考えを示した。「こうした施策により、航空旅客取り扱い数4300万人などの目標を達成していきたい」と話した。
 国内線は目標である20都市就航を達成する見通しだが、「国際線は115都市。今後数都市増える見通しにはあるものの、目標とした130都市まで拡大していくことは厳しい」とコメント。「想定と大きく食い違ったのは、やはり中国と東南アジアのネットワーク拡大だ」との認識を示した。
 「成田空港と羽田空港は、中国との間でオープンスカイが適用されていない。北京、上海空港もオープンスカイにはなっておらず制約がある。また、中国系航空会社は中国側の権益を使い果たしていることから、成田空港に就航することが事実上できない」とし、「オープンスカイの適用空港となっている関空や中部空港に就航を増やしている状況だ」と頭を抱える。その上で、「中期経営計画を立てた時には、このあたりの権益も見直されるのではないかと期待していたが、残念ながら未だ見直されていない」との認識を示した。
 夏目社長は「我々の調査では、関空−中国間に路線があって、成田からの路線がない路線は16路線。16路線のうち、2010年の国勢調査で8都市は人口600万人を超えている」と説明。「航空権益の見直しが行われ、中国の航空会社が成田空港に就航する条件が整えば、拡大する可能性はあると思う」とコメントし、中国民用航空局(CAAC)など中国サイドへの働きかけを行う。さらに「中国の航空会社は権益を全て使い果たしたが、日本の航空会社はまだ枠をだいぶ保有している。日本の航空会社が中国路線を積極的に開拓していただければありがたい」と、日系キャリアによる成田-中国間路線の増便などにも期待を寄せた。
 一方、「東南アジアについては、中国のような制約はない」ことに言及しながら、「我々は東南アジアを伸ばしていきたい。とくにLCCの守備範囲である4000キロメートル圏内については、増やしていきたい」とし、「(A320ceoよりも)航続距離が長いA320neoも登場しており、東南アジアの就航都市を拡大していきたい」と話した。

 

 発着回数、目標の27万回に届かず
 羽田昼時間帯米便就航などが影響

 また現中期計画では、18年度末までに発着回数27万回とすることを目指してきた。しかしながら18年度の見通しをみてみると、17年度よりも1.6%増加するものの25.6万回に留まる。
 これについて夏目社長は「羽田空港の米国昼間時間帯便就航開始は想定していたが、我々はダブルデイリー運航便が羽田にシフトすることで減便になるだろうと想定していた。しかし、想定以上に羽田空港の米国便昼間時間帯就航による運休・減便が増加したことが最大の要因」と分析。さらに「LCCの国際線展開がもう少し勢い良く出てくると思っていたが、想定上にLCCの国際線展開が遅れた」との見方も示した。
 その他、今年度の取り組みとして旅客待ち時間の短縮チェックイン効率化に寄与するファストトラベルの推進については、「自動手荷物預け機を各ターミナルに本格導入したい」とコメント。さらに、「スマートセキュリティの導入や空港内での旅客の流れを把握し、最適化するための仕組みである旅客動態管理システム(PFM)の導入を進めることで、施設・人員配置を最適化して更なる手続きの効率化を進めたい」と話した。
 リテール事業に関しては、「魅力ある商業空間の創出に継続的に取り組む」とし、「現在、出国手続き後の商環境充実に向けて第1ターミナルの新規区画整備を進めているが、7月までに新たに11店舗をオープンする」予定にあることを明かした。
 「訪日外国人向けの販売策も更に特化することで、目標である空港内店舗売上高1500億円の達成を目指す」方針を示している。

 

 更なる機能強化、マスタープラン策定は一年から一年半後
 滑走路増設など概ね10年予想も早期完成目指す

 成田空港の更なる機能強化に向けて、NAA、国土交通省、千葉県、空港周辺9市町は滑走路の増設・延伸、夜間飛行制限の緩和、年間発着回数の増加などについて、3月13日に四者協議会で合意した。
 夏目社長は「今後のスケジュールは、環境アセスメントや事業着手に際して必要な航空法の変更許可申請などの諸手続きを着実に進めて、それらを経た後に用地取得、滑走路などの建設工事を進めていく」とし、「新たな空港建設に匹敵する大規模事業となる更なる機能強化実現に向けて、関係者ともにこれまで以上に努力していく」と話した。
 その上で、「とくにA滑走路は2020年オリンピックまでに運用時間を6時から24時までとする夜間飛行制限緩和を先行的に実施することから、内窓設置工事を先行的・集中的に実施するなど、スピード感をもって対応していく」ことを明らかにした。
 「(更なる機能強化に関する)計画の粗々のアウトラインは出ている。これは現在のターミナル配置、滑走路、誘導、エプロン配置をとりあえず出しているが、できれば環境アセスメントが終了するまでにはある程度のものにしていかなければならない」との見通しを示し、「環境アセスメントの最終段階までの手続きが後一年から一年半くらいかかるのではないか。現在は概略設計を関係箇所で実施しているが、それを更につめて、マスタープランのようなものを一年から一年半の間に確定していくことになると思う」と話した。
 「ただ、そういっても環境が激しい時代。世界経済の動向も直結する。需要動向に的確に対応しなければならず、一旦作成したマスタープランを未来永劫変えることはないということはなく、絶えず見直しを図りながら、大規模投資を進めていくことになるだろう」としている。
 その上で、「我々はできるだけ早く更なる機能強化を実現して、成田空港の機能強化につなげていきたいと考えているが、諸手続き、環境アセスメント、土地取得、造成、滑走路工事などを含めると、やはり概ね10年くらいは要すると思う」との認識を示した。一方で「何も10年をかけなければならないということではなく、用地取得などもできるだけ早くご理解をいただくことで、少しでも早く完成させて競争力強化につなげていきたい」としている。

 

 JALの新LCC設立報道に期待
 
 日本航空(JAL)が5月11日現在、2020年を目処に、新しいLCCの設立を検討中だ。このベースとなるとみられているのが、成田空港だ。夏目社長はJALが検討中の新LCCについて、「私どもはフルサービスキャリアのみならず、LCCが成田空港の成長を支える大きな柱だと思っている」とコメント。その上で、「FSC、LCCがクルマの両輪で成田空港の発展に向けて頑張っていただきたいと考えており、(報道の内容は)大いに期待できる」と話した。
 「欧米では3割-4割がLCCのシェア。東南アジアは5割を超える。日本は13-14%で、成田は30%を超え始めたところ。成田の発着枠は当面の枠である30万回にもまだ枠がある。第3ターミナルも拡張することから、様々なかたちでLCCの成長をサポートしていきたい」としている。

 

※写真=二期ぶりの増収増益となった決算を説明する夏目社長。更なる機能強化へマスタープランを1年から1年半で確定するとも