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サフランがヘリエンジン・オペレーターセミナー開催
電子化や点検間隔拡大などでユーザー負担軽減へ
サフランと日本エアロスペースは5月16と17日の二日間の日程で、都内において「サフラン・ヘリコプタ−・エンジンズ・オペレーターセミナー」を開催した。同セミナーにはサフラン製エンジンのユーザーである国内の官民ヘリコプタ−運航者から多数の整備担当者が出席した。とくに今回のセミナーでは新型エンジンではAW189搭載の「アネート」の概要説明、EC135向け改良エンジン「アリウス2B2プラス」の詳細説明があった。また、支援整備関係では技術資料、マニュアルの電子化や部品のネット発注などの新しいサービス、さらにエンジンの点検間隔延長やカレンダー制限の廃止など、ユーザーの負担軽減となる改善についても説明された。
サフラン、ターボメカ以来80周年に
仏大使、日仏航空協力の好例と賞賛
サフランは今年その前身のi社のターボメカが創業80周年を迎え、日本ではターボメカのヘリコプター用タービン・エンジンが導入されて60年以上となり、国内民間ヘリエンジンでは半数以上のシェアを占めている。
このセミナーでは全般的な新製品紹介もさることながら、極めて具体的な個別エンジンの不具合と改善方策の説明が行われた。現場の整備士とメーカー側、商社側の密接な情報交換による運航率の向上というありかたを進める上で、これまで10年以上に亘って開催されてきたオペレーター・セミナーである。
なお、16日の夜にはフランス大使公邸でレセプションが行われ、ローラン・ピック大使も出席し、日本とフランスの航空分野における長年に亘る協力関係の成功例としてサフランと日本エアロスペースの活動に賛辞を贈った。また、サフラン(ターボメカ)製エンジンを搭載したヘリコプターによる飛行時間が1万5000時間を超えたパイロットとして、藤間七郎・雄飛航空社長に記念プレートが贈られた。
レセプションでは、サフランを代表して支援・サービス部門営業・マーケティング担当のフレデリック・ブジョンバイスプレジデントが挨拶。日本には「ラマ」ヘリコプタ−とともに最初のターボメカ製エンジンが導入されて以来、ローカルチーム(日本エアロスペース等)と協力して、ユーザーに満足してもらえるサービスを提供し、信頼性確保、コスト低減につとめて来たと述べた。そのうえで、今後もサフラン製エンジンの採用を訴えた。
日本エアロスペースからは谷村仁司社長が挨拶し、日本のヘリコプター業界に対するサフランとの長年に亘る協力体制を引き続き強化して行く考えを示した。輸入エンジンでありながら、サービス体制の充実で国内で大きなシェアを得るに至ったことに自負を示した。
藤間七郎氏に1万5000時間表彰
雄飛航空社長、同社製エンジンの飛行記録
なお、特別表彰された藤間七郎氏は、16日の午前中もヘリコプタ−を操縦してきたという根っからのパイロットで、飛行時間は2万時間近いというが、そのうち1万5000時間がサフラン製エンジン搭載機によるもの。サフラン製エンジンはパイロットの立場からは制約が少なく、思い通りの飛行ができると信頼感を述べた。自ら雄飛航空を設立し、チャーター飛行やストック映像撮影等のユニークな飛行事業を自らの操縦で事業化してきた。飛ぶ事が何より好きと語った。
世界的なサービス体制の強化の中で日本には3名のフィールド・レップを配置している。中国、イギリス、カナダと同数で、日本ではサフラン製エンジンの使用台数が多いことから当然ともいえるが、レップはユーザーとの接点であり、要望を吸い上げる役割もあるので、レップの訪問の機会を活用して、コミュニケーションを活発化するようにサフランでは呼びかけている。
サフランでは各種のエンジンサポートを「エンジンライフ」サービスと名付け、トレーニング、技術図書(電子化)、部品補給・整備、技術支援、コストコントロールと可用率管理支援など、電子化したサービスの提供を行っているという。
電子化の基礎となる電子ログブックについては、まだユーザーが慣れていないため、使用法についての説明をセミナーでも行った。全般的に、点検間隔の延長や点検回数の削減等整備のワークロード軽減を目的とした改善を継続的に実施して来ている。
大型機用の新エンジン「アネート」開発
2500馬力、AW189向け今年運航開始へ
サフランのヘリコプタ−用エンジンは、アリエル、アリウス、マキラ、RTM322が日本で採用されており、アルディダンとMTR390が海外で実用化され、さらにエアバス・ヘリコプターズH160用のアラノとレオナルドAW189向けのアネートが開発の最終段階にある。RTM322とMTR390(タイガー戦闘ヘリ用エンジン)はロールス・ロイスとの合弁からサフラン単独の事業に変わったもの。
新エンジンの「アネート」(ANETO)はサフランのヘリコプタ−エンジン・ファミリーの最大出力(2500から3000軸馬力)クラスとなるもので、スーパーミディアム級AW189および将来のヘビーヘリコプタ−(総重量12トン級)の搭載エンジンとして開発している。AW189向けの2500馬力クラスが今年運航を開始する予定で、さらに3000馬力級のヘビーヘリコプタ−市場に向けた新エンジン提案のため試作試験を行っているという。アネートの基本構成は、コンプレッサーは軸流3段と遠心式1段のハイブリッドで、ガスジェネレーター・タービン2段、パワー・タービン2段となっている。二重系統のFADEC(電子制御装置)を装備する。サービス体制もパワーパックとしてアネート2台とAPU(補助動力装置:スタート用の小型ガスタービン)を包括契約することを決めており、低いコスト、高い稼働率を意識した設計、開発を行っている。運航範囲はマイナス50度Cからプラス50度Cとなっている。
EC135用改良型エンジン、アリウス2B2プラス
部品は在来と共通で効率化、
また、小型エンジンではEC135などに搭載する改良型のアリウス2B2プラスが紹介された。アリウス2B2プラスは、日本でも多数使用されているEC135T2ヘリコプタ−のアリウスエンジンと部品は100%共通で、導入に当たって追加の訓練等も不要。環境適合性も向上しており、排気時のススが減少し、テールブームが黒くならないうえ、騒音も低減する。
最大出力812軸馬力の同エンジンはエンジン重量115キログラムで平均燃費が155キログラム/時、制御はマニュアルバックアップ付きFADECとなっている。高度2万フィートまで運航でき、外気温度マイナス35度Cからプラス54度の運航範囲のため高地運用にも対応可能。出力は標準大気海抜条件(OEI)で721馬力まで無制限、最大連続出力622馬力、最大出力812馬力は90秒以内の制限がある。モジュール化された構造で3個の主要回転体、遠心式コンプレッサー、ガスジェネレーター・タービン、パワー・タービンで各1段、燃焼器は環状でガスジェネレーターを囲む位置にあって、エンジンの全長は1.17メートルとコンパクトだ。
モジュール交換は1日以内で可能で、技術者を派遣すれば運航者の作業場で実施可能。モジュールは個別に修理可能で、モジュール交換後のテストベンチ運転なしに飛行が可能という。FADECは機体側に搭載して、エアバス・ヘリ社のヘリオニックス・アビオニクスに100%対応する。エンジンライフリミットはコンプレッサが2万サイクル、ガスジェネレーターが1万4000サイクル、パワータービンが1万3000時間で、TBOは4000時間、民間顧客の80%が取卸なくTBOに達するという。また、エンジンのカレンダーリミットはモジュール1では無くし、モジュール2でもメンテナンスセンターでの15年点検のみと大幅に検査を緩和し、可用性を高めた。
※写真=サフラン・エンジン・オペレーターズシンポジウムの様子