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ジェネラル・アトミクス、壱岐「ガーディアン」飛行実証試験公開
高密度船舶海域のAIS観測や航空機衝突回避システムなど
ジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ(ジェネラル・アトミクス)は5月22日、壱岐空港において、同社が実施中の無人航空機MQー9「ガーディアン」の飛行実証を公開した。ジェネラル・アトミクスによれば、去る5月10日スタートした、壱岐空港を拠点とした飛行実証では、5月22日現在で計7回ほどの実証を行ったとのこと。5月24日で実証実験は終了することから、天候や風の影響もあって予定していた10回程度には飛行回数は満たなかったものの、概ね計画していた飛行実証を行うことができたと評価している。
なお、ジェネラル・アトミクスでは、社費を投入して社有機の「ガーディアン」を壱岐に持ち込んで実証実験を実施。壱岐島の観測や高密度船舶海域での自動船舶識別装置(AIS)観測、長崎県の普賢岳の観測、周辺の島々の観測などを実施した。ほかにも混雑する日本上空空域で、無人航空機が回避行動を取ることができる自動の衝突回避システムについても確認した。
ちなみに、22日の飛行実証では、壱岐島周辺を飛行。AIS観測や壱岐島の観測などを行い、このなかで地元・筒城(つつき)小学校の生徒たちが昼休み時間に校庭に出て人文字を制作。「ガーディアン」に向けて手を振るシーンもみられた。
マルチロール無人機「ガーディアン」
監視・捜索救助・災害対策など多様なミッション
「ガーディアン」は翼幅24メートル、全長17メートル、最大陸重量が5670キログラム。その燃料容量は2721キログラムを要しており、最大航続時間は40時間にも及ぶ飛行する能力を有する。最大飛行速度は210ノットだ。
その「ガーディアン」を現在、米国の国土安全保障省が9機運用中だ。メキシコ湾や太平洋上における麻薬取引の監視や国境監視ミッションを中心に、「ガーディアン」を投入している。
日本はいわずもがな海洋立国だ。その排他的経済水域は実に447万平方キロメートルにも及び、従来の有人機や艦船などを使った監視ミッションには限界もあろう。一方で、「ガーディアン」のような無人航空機を投入すれば、24時間の常時監視体制を構築することができる。
ジェネラル・アトミクス太平洋地域国際戦略開発担当のテリー・クラフト副社長は「広大なEEZを監視するためには効率的に実施するしかない。こういった無人機に対する関心も高いようだ」と、日本市場における手応えに言及。「海上における不法行為に対する関心は日本に限らず他の国々でも関心が非常に高く、密漁や密輸、瀬取り対策として考えられている」とし、さらに「自然災害などに対する救援活動にも活用することができる」と話した。
洋上の監視ミッションでは、広域のレーダーによって周辺を航行する全ての船舶を捉えることができる。それら一つ一つの船名、サイズ、どのような装備を搭載しているのか、さらには航跡など、様々な情報を取得することができる。
「ガーディアン」は搭載されているレーダーを使って、AIS上に登録されている船の長さと実際の船の長さ比較する。AIS上では漁船として登録されていても、そうではないケースもあって、こうした解析を通じて怪しい船をあぶり出す。航跡についても半径200キロメートルにも及ぶ広範囲レーダー内の全ての船舶の航跡を長時間記録することが可能で、数時間経過した後に、不審な動きをしていると認識された船舶の全ての航跡などを把握することができる。
「ガーディアン」の用途は何も監視ミッションだけではない。例えば、捜索・救難ミッションにも投入することができる。優れたセンサー、レーダーを搭載することができる「ガーディアン」は、まさに「マルチロール」であって、ペイロードを変えることで様々なミッションに適用することができる。
監視ミッション以外に投入された事例として、昨年米西海岸で発生した大規模な山火事に際しても、「ガーディアン」は活躍。さらに米東海岸ではハリケーン発生前に地上の様子を撮影して、ハリケーンが去った後にも飛行して被災状況を確認した。こうしたことで、迅速な救難救助や安全な避難ルートの確保、さらには被災後のインフラ復旧などにガーディアンがもたらした様々なデータが貢献した。
そのほかにも、「水難や山岳遭難者が発生した場合、日本では夜間に有人機が飛行することができない。ガーディアンならば24時間飛行することが可能で、捜索活動を継続することができる」とし、赤外線レーダーなどを用いることで、人の体温を感知して遭難者を発見することができることを明かした。
有人機飛び交う空域で無人機が飛ぶ
NASAと共同開発、衝突回避レーダーシステムに7年の歳月
有人機が飛び交う空域に、無人の航空機が飛行することは大きな懸念材料だった。しかし、それはもはや過去の懸念といえよう。「ガーディアン」は有人機が飛び交う空域を安全に飛行する能力を既に身につけているといえる。
「ガーディアン」に搭載されている衝突回避レーダー・システムについて、クロフト副社長は「衝突回避レーダーの開発には7年もの歳月を費やしており、NASAや国土安全保障省と組んで開発を進めており、概ねシステムとして完成した」ことを明らかにした。
「ガーディアン」は飛び立つと、管制官にとっては普通の有人機と見分けがつかない。無線を通じて管制官と対話もするし、レーダーにも通常の航空機と同様に表示される。実際、一般の人々が見ることができる「Flight Lader」上にも、5月22日当日行ったフライトが表示されていた。
ジェネラル・アトミクスが実施した以前のテストでは、「ガーディアン」に向かって飛行するテスト機を飛ばした。徐々に両機が接近し、衝突が予想されるエリアが「ガーディアン」の地上オペレーターに表示される。時間の経過と共に、衝突危険エリアが拡大。通常、「ガーディアン」のパイロットは衝突の危険があれば回避行動を取るが、テストではあえてマニュアルによる回避行動をとらずに、自動モードによる回避行動を試験。オペレーターがあらかじめ設定した離隔距離で、回避行動を取ることができるという。
「この機能のおかげで、大型無人機が米国本土において、有人機が飛び交う空域であっても飛ぶことができる。国土安全保障省では、衝突回避レーダーを搭載した機体を実際にテキサス州から運用している」ことを明かした。
衛星通信介した自動離発着
7月には衛星通信で大西洋横断飛行も
壱岐における実証実験では、ジェネラル・アトミクスでも指折りのベテラン・パイロットが操縦していたが、「ガーディアン」は衛星通信を介した自動離発着をすることも可能だ。「Cバンドを使った自動離発着は、既に8万回以上実施している」ことに言及し、「米国土安全保障省でも、自動離発着装置による運用を実施している」ことを明かした。
「衛星通信のみを使って自動離発着することができることになると、Cバンドが不要になり、Cバンドがない空港にも自動離発着することができるようになる」と話し、「この機能があれば、例えばガーディアンの地上管制装置のあるところから飛び立ち、地上管制装置のないところに着陸して発進するといった、通常の航空機と同様の運用をすることも可能」との認識を示した。
その上で、「今年の7月には、衛星通信を使ってノースダコタ州から大西洋を横断して、英国までフライトする」予定にあるという。「(特定の機体コンフィギュレーションは)特別な許可なしに2023年には欧州を自由に飛ぶことができるようになる見通し」にあることにも言及。その上で、「我々は通常の有人機が飛行する空域を飛ぶことができる、型式証明を取得可能な機体を目指している。そうした最初の機体となるだろう」との見通しを示した。
※写真=「ガーディアン」の壱岐空港における飛行実証を公開