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2018.05.29

WING

JAXA、aFJRプロジェクトで燃費性能1.7%向上技術を実証

目標上回る成果、IHIが将来国際共同開発で実用化目指す

 

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は昨年度までの3カ年間、高効率軽量ファン・タービン技術実証(aFJR)プロジェクトに取り組んできた。このaFJRプロジェクトは、国内エンジン産業の更なる国際競争力強化に貢献するために、燃費低減を実現するファンの軽量化と効率向上、さらには低圧タービンの軽量化を技術目標に設定。JAXA航空技術部門aFJRプロジェクトの西澤敏雄プロジェクトマネージャは、「V2500に対して現在の新型エンジンは15%程度の燃費削減で開発されており、aFJRでは更に1%燃費を削減するために必要な技術開発をしてきた」とコメント。その結果、「軽量化するなど積み重ね、1%の目標に対して1.7%燃費性能を向上することができる」ことを明かし、実証した技術を適用すれば、例えばPW1100G-JMなどといった現在の新型エンジンを、更に1.7%ほど燃費性能を上回ることができるとの見方を示した。
 aFJRプロジェクトに参画したIHI航空・宇宙・防衛事業領域の今村満勇副事業領域長兼技術開発センター所長は、「(プロジェクトの)テーマは、IHIとして重要ながら未だ手を付けることができていない、一方で解決しなければならないというテーマを選定して取り組んだ」とし、プロジェクトで得られた成果について、「国際共同開発でこれらの技術を利用して、実用化に向けて製造技術を含めて、製品化に向けた検討をしていく」考えを明らかにした。
 なお、JAXAは現在、IHIが防衛省・自衛隊と共に開発したP-1哨戒機搭載用エンジンであるF7エンジンを、2019年度に技術実証用エンジンとして導入する。aFJRプロジェクトは昨年度で一応終了となっているものの、引き続き、「フォローアップの研究開発として、実用化促進事業という名前でいくつかの研究を進めていく」(西澤プロジェクトマネージャ)方針だ。とくに樹脂製の吸音ライナは「新しい技術であることから、実用に向けて、エンジン・システムレベルでの実証を進めていく」とし、「(JAXAが導入する)F7エンジンで実証する」ことを目指す。
 西澤プロジェクトマネージャはaFJRプロジェクトで獲得した技術を用いて、「日本のメーカーが次世代エンジンの開発に向かって競争力を獲得し、産業がますます振興することを願っている」と話した。

 

バイパス比13を実現する要素技術開発

 

 aFJRプロジェクトは、JAXA航空技術部門の重点課題として掲げている航空環境技術(ECAT)、航空安全技術(STAR)、そして航空新分野創造(Sky
Frontier)という3つの柱のうち、航空環境技術に属する研究開発プロジェクト。2014年度からスタートした同プロジェクトは、2017年度で終了した。
 原油価格の上昇や年々厳しさを増す環境規制などを背景に、運航効率に優れ、かつ環境適合性有するエンジン開発が急ピッチで進められてきた。ユーザーであるエアラインなどのニーズに応えるため、エンジンは高バイパス比化が進み、A320neoに搭載された新型エンジンPW1100G-JMエンジンのバイパス比は実に12もの高バイパス比に達している。そうしたなかJAXAでは、「aFJRではバイパス比13を目指した」(西澤プロジェクトマネージャ)とのことで、今後の更なる高バイパス比化を見越し、燃料消費低減の効果を目指す要素技術の研究開発を進めた。
 同プロジェクトでは前述したように、ファンの軽量化とファン空力効率の向上、さらには低圧タービンブレードの軽量化に関連した技術開発と実証に取り組んだ。ファン軽量化では、軽量ファンブレード技術として中空ナローコードCFRP翼設計技術に取り組んだほか、軽量メタルディスク技術で加工シミュレーションベース設計技術、さらには軽量の吸音ライナの開発に取り組んだ。

 

中空CFRP翼設計技術を確立

 

 中空ナローコードCFRP翼設計では、実際に供試体を作成。「従来はチタン合金で製造されていることが多い。既にいくつかの機種ではCFRPを用いて運用されているものもあるが、aFJRではCFRPブレードを中空にして軽量化を図ろうという取り組みを行った」ことを明かした。
 作成した供試体は、JAXAの試験装置を使って、耐衝撃性実証試験を実施。試験では、中型の鳥に見立たゼラチン2.
5ポンドを供試体に衝突させて、高速衝撃時の損傷解析技術・設計製造技術などを向上させることに成功。これにより、CFRPファンブレードの中空構造を実現することができた。
 さらに、東京大学や筑波大学大学院との共同研究で、CFRP中空ファンブレードの高速衝撃時に発生しうる、接着部剥離や層間剥離といった損傷現象を把握することを可能とし、耐衝撃性設計に対する予測モデルの有効性を確認することができた。
 また、スーパーコンピューターを用いた衝撃解析を通じて、翼表面に発生する歪みのピーク値を高精度(±10%以内)で予測可能とし、高精度かつ軽微な損傷を再現する解析技術も獲得したという。

 

樹脂製の軽量吸音ライナ開発に成功
嵩比重40%軽量化、吸音性能も5dB向上

 

 軽量の吸音ライナを開発することにも成功した。吸音ライナは従来、アルミで製造されているが、JAXAはこれを樹脂製とすることで大幅な軽量化に成功。フルスケールの供試体を設計製作し、嵩比重でアルミ製の吸音ライナに対して、40%以上の軽量化に成功した。
 さらに、フルスケール供試体から製作した試験片について、ピーク圧縮応力を計測。計測の結果、耐荷重強度が十分であることも確認したという。
 また、肝心の騒音低減性能に関しても、従来のアルミ製のものに比べて有意な差を確認。実験ではファリング試験に搭載可能なサブスケールの樹脂製パネルを設計製作し、着目周波数(1/3オクターブバンド中心周波数4kHz)について、ファン回転数50%、55%、60、65%(着陸時相当)の全ての条件で、樹脂製ライナの音圧低下量がアルミ製ライナ以上となることを確認。「5dB程度、騒音を低減することができる」(西澤プロジェクトマネージャ)ことが分かった。
 ちなみにJAXAは樹脂製吸音ライナの製造コストに関しても調査を実施。曲率付きフルスケールパネルを試作し、量産製造コストで30%削減することができることも確認した。

 

CMCのLPTブレード確立へ要素技術研究
過回転防止やフラッタ予測、強度信頼性評価も

 

 軽量タービンブレード技術の実証では、CMC(セラミックス基複合材)で軽量な低圧タービンブレードを開発することを目指し、そのために必要なCMCブレードの過回転防止設計技術やタービンフラッタ予測技術、さらにはCMC強度信頼性評価技術といった要素技術の研究に取り組んだ。
 過回転防止設計技術について西澤プロジェクトマネージャは、「タービンの一つの課題は、万一、ファンとタービンを繋ぐシャフトが壊れて、何の負荷もなくなった場合、タービンがオーバースピンを起こして羽根が飛び散ったり、最悪の場合には羽根を支えるディスクが飛び散るなど、非常に危険な状態になる。それを防ぐために、オーバースピンを防止するという技術が必要」とコメント。「シャフトが切断された時には、意図的に回転する羽根を壊して、トルクを失わせる技術が必要となる」とし、新しい素材であるCMC製のタービンブレードで、この過回転防止設計技術を確立することを目指した。さらに、回転衝撃破壊試験において、安全にCMCブレードを破壊できることも実証しており、スーパーコンピュータを用いた衝撃解析でも、回転衝撃試験の結果を高精度に予測可能で、CMCタービンブレードの過回転防止設計に有効であることを確認したという。

 

■日本の弱点、高圧系への取組も加速

 

 日本の航空エンジン産業にとって、民間航空機搭載エンジンの国際共同開発における長きに亘る弱点とされてきたのが、高圧系だ。既存の国際共同開発エンジンでは、低圧系では世界に対して確かな存在感を発揮することができているものの、要である高圧系は海外エンジンOEMがなかなかキー技術であることから外に出さず、日本の航空エンジン産業が踏み込めていない領域だ。さらに、仮に将来的に民間航空エンジンの国際共同開発で、日本主導型のエンジンプロジェクト、すなわち“メイド・イン・ジャパン”のエンジンプロジェクトを立ち上げるならば、高圧系の研究開発を加速して、国際競争力を有しなければならない。
 そうしたなか、JAXAとしても高圧系の研究開発として、「aFJRプロジェクトと並行して、航空技術部門のなかでグリーンエンジンプロジェクトを前中期計画で進めてきた。燃焼器や高圧タービン、圧縮機など、いわゆる高圧系の要素技術について研究開発を進めてきた」(西澤プロジェクトマネージャ)とコメント。
 「燃焼器や高圧タービンについて、日本としても進めていこうということで文部科学省でご審議頂き、JAXAにおいてもコアエンジンに重点的に取り組む方向で舵を切り始めた」という。
 具体的には今年度から2022年度にかけて、燃焼器と高圧タービンといったコアエンジン技術の研究開発を加速。2023年度以降、高圧タービン実証設計・製作にも踏み込むことを計画している。

※画像=aFJRプロジェクトで開発した要素技術の適用を想定したジェットエンジンのイメージ(提供:JAXA)