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2018.11.05

日本旅行の決断

、担当者はFIT出向との兼務で、ほぼ海外旅行事業は子会社に移行される。
 同社の海外旅行事業の組織改正は15年ぶりというが、これまでとは違い、海外旅行事業自体を別会社に切り出したことは、かつてない思い切った改革といえる。
 日本旅行は今回の再編の理由について、年々加速化、多様化が進む海外旅行事業を取り巻く環境変化に対応するためとしている。その背景にあるのは、FIT化とオンライン・トラベル・エージェント(OTA)の台頭の一方で、リアル・エージェントとして海外旅行事業を手掛けていくことの難しさだろう。
 日本旅行の2017年(1-12月)連結決算は、営業収益が前年度比0.7%減の526億円、営業利益が38.0%減の862億円で、営業費用面の見直しが課題とされていた。
 2018年中間決算は営業収益が3.5%減の240億円、営業損失は7億円を計上。2018年通期業績予想は、営業収益が1.5%増の534億円、営業利益は1.4%減の8.5億円と、期初計画から増収減益を見込んでいた。
 同社では、海外旅行事業の再編による収支改善が喫緊の課題であり、その解決策が、今回の海外旅行事業のFITへの委託とみられる。
 最大手のJTBが分社化を経て、再び統合に舵を切ったように、大手旅行会社の海外旅行事業は岐路に立たされている。JTBは統合によるスールメリットを求め、「ダイナミックJTB」のように、OTAと伍して競争しているが、その一方で、法人・教育旅行事業、MICE事業、グローバル事業などの多角化を進めることにより、全体に占める海外旅行はもとより旅行事業のシェアが小さくなっている。
 クラブツーリズムや阪急交通社は自社媒体やメディアによる顧客の獲得による直売を進めており、独自の販売形態の道を歩んでいる。
 最も難しいのは、店舗営業を中心とする旅行事業ではないか。オンラインの時代にあっては、店舗を維持することはますます困難になりつつある。とくに、売上高の大きい旅行会社は、売上高の多少の伸びでは、販管費の負担に耐えられなくなっている。
 これは旅行業界だけでなく、店舗営業を中心した銀行業界も同様であり、数年後には旅行業界と銀行業界の店舗再編が大きく進む可能性がある。
 加えて、日本旅行の場合は親会社であるJR西日本の存在も大きい。国内デスティネーションキャンペーン、国内旅行商品「赤い風船」に見られるように、JR西日本と日本旅行の国内旅行事業は一体化している印象を持つ。
 また、JR西日本にとっては、国内とともに訪日インバウンドの西日本への取り込みが最重要事項の一つであり、日本旅行はその先兵の役割を担う。
 日本旅行は中期経営計画で、MICE、BTM、インバウンド、インターネットなどの中核分野の取扱いを伸ばし、その構成比は47%と半分近くまで高めてきている。2020年度に中核分野のシェアを54%と既存事業を逆転することをめざしてきた。
 そうした中で、地方創生事業にも力を入れ、新潟・佐渡観光推進機構(DMC)への出資や各地のDMOとの提携協力など、新たな事業展開を進めている。
 今後、中核事業を進めるに当たり、最大の課題は既存事業の収支管理であり、まずは海外旅行事業をフレックスインターナショナルツアーズに移管することで収支改善を図り、今後は国内旅行事業の収支管理も徹底化していくとみられる。
 大手旅行会社のビジネスモデル転換は、コスト削減を伴うだけに難しいが、日本旅行の海外旅行事業の子会社移管は、日本の海外旅行の成長を支えてきたホールセール事業、パッケージツアー、店舗営業が転換を迎えたことの象徴かもしれない。(石原)