DMOの独自性
日本は「ものづくり」の国と言われる。但し、「物を売る」のは得意でない。「物をつくり、流通に乗せて、物を売る」。流通はインターネットの登場で、革新的に変わっているが、「物をつくり、物を売る」のが商売の基本だ。
訪日インバウンドの中核となるDMOが「物をつくる」というのは、観光資源を磨き上げて、観光素材を生み出すことにある。そして「物を売る」のは、その観光をプロモーションし、外国人がその地に来て消費してもらうことだ。
訪日4000万人、6000万人に向けて、大都市圏から日本中へ訪日外国人旅行者が拡散するこれからが、全国の観光DMO事業の本番である。DMOは観光資源を見出し、磨き上げ、宝となるべき観光商品を生み出し、そしてそれを世界に売っていかなくてはならない。
現在、「世界水準のDMOのあり方に関する検討会」が行われている。DMOは観光資源を生み出し、磨け上げ、観光地・観光商品をプロモーションし、多くの外国人旅行者を誘致し、滞在消費額を増やす。DMOはKPIの設定とPDCAサイクル導入により収益を上げて、事業を黒字化をめざす。黒字化するには、収益事業とともに、特定財源、行政からの補助金の充当も必要になる。
こうした収益性とともに、DMOは地域創生のために地域住民と観光客の満足度向上、独自のブランド創出が不可欠となる。ここからは競争であり、DMOそれぞれの「物をつくり、物を売る」ための真価が問われることになる。
ところが、観光戦略実行推進会議の議論を聞くと、DMOの独自性発揮というよりも、統制的な方向性が目立つようだ。とくに、影響力のあるデービッド・アトキンソン氏の主張は、DMOの独自性を失わせかねないと危惧する。
アトキンソン氏は、DMO理事会の過半数は単独DMO(地域DMO)が国立公園、文化財所有者、宿泊施設、アクティビティ事業者などの地元関係者、広域DMO(地域連携DMO、広域連携DMO)が単独DMOの地元関係者でそれぞれ構成すべきと主張した。
その主な事業内容は、単独DMOは各省庁の観光予算の調整、着地整備、顧客満足度の向上にとどめ、発信は原則禁止、JNTOへのコンテンツ提供のみで全体事業の約3割まで、広域DMOは地域間の観光整備の調整、顧客満足度の向上、JNTOと発信戦略の調整で、原則発信禁止、コンテンツ提供のみで全体事業の半分までとタガを嵌めた。
国際観光旅客税の2019年度税収500億円のうち、100億円が文化庁に計上され、文化財など観光資源の磨き上げには多額の予算が計上される。また、新税を活用して観光庁は2019年度から「地域の観光戦略推進の核となるDMOの改革」に新規で約23億円を計上する。
DMOとしては収益事業とともに、観光資源の磨き上げ予算、DMO配分予算を事業に充当したい。そのために、海外発信はJNTOに任せ、DMOは観光資源の磨き上げ、ものづくりに専念するというなら、DMOの独自のブランディングなどが難しくなる。
DMOの中には、マネジメント、マーケティングの専門家を迎え、戦略・戦術を立てて海外発信・海外プロモーションを展開しているところもある。こうしたDMOの独自性を尊重し、JNTOはそれらをうまく統括・管理すればよいのではないか。
米国ではリゾート地、IR、メガテーマパークのある観光局のプロモーション予算は莫大であり、世界中に独自の発信を展開している。日本有数のリゾート地や、これから決まるIR候補地などは、DMOから離れたほうがプロモーションは効果的かもしれない。画一的でない、個性溢れた独自性のあるDMOの海外プロモーションを期待したい。(石原)