スリランカと観光産業
スリランカで4月21日にイスラム過激派によるとみられるホテル、教会など8カ所への同時爆破テロ事件が発生した。犠牲者は4月24日の段階で、死者321名、負傷者約500人名、日本人も1名亡くなった。
3月23日にニュージーランドのイスラム教モスクで起きた銃乱射事件への報復との見方も出ている。同時爆破テロがゴールデンウィーク直前に発生したことで、旅行全体への影響が懸念される。
とくに、日本人の海外旅行はゴールデンウィーク10連休という追い風に乗り、史上最高の需要が予想されており、予約のピーク時に事件が発生したことで、ゴールデンウィーク後の伸びが鈍化する可能性もある。
今回、同時爆破事件によるスリランカ観光業への影響は計り知れない。とくに、今回は日本人が犠牲に合われており、過去の事例に即せば、需要回復にはある程度の時間を要するとみられる。
スリランカの2017年経常収支は、観光収入の順調な増加でサービス収支の黒字が拡大したが、自然災害の影響で貿易赤字が横ばいになったことで、GDPはマイナスに転じた。しかし、2018年はプラス成長に転じ、今年も観光産業の貢献によるGDPの成長が見込まれている。
このため、スリランカは海外からの旅行者誘致に向けて、受入体制を拡大している矢先の出来事だった。去る3月にスリランカ航空は日本で記者会見を開き、週4便で運航している成田−コロンボ線を7月16日から週5便に増便することを決定し、需要動向を見て、早ければ来年にはデイリー化を検討する方針を明らかにした。
近年、観光目的で日本からスリランカへのアウトバウンドが増加している一方で、南アジアや中東諸国からコロンボ経由で訪日インバウンドも拡大し、これを受けて同航空は日本路線を増強することにした。
スリランカ航空では、「羽田空港の発着枠が獲得できれば、羽田、成田両空港からの運航を望みたい」と、コロンボ−東京間の需要拡大にさらに期待を寄せていた。また、同路線利用者の約3割はマーレへの乗り継ぎ客で、日本からモルディブへのアクセスとして利便性が高く、今後のモルディブへの影響も心配される。
スリランカは2009年に内戦が収束して観光需要が高まり、ここ数年はスリランカのリラクゼーションが日本の女性から注目を集めるなど、日本人観光客が2010年から右肩上がりで成長、2018年は前年比約10%増の4万9514人に達し、同航空は今年も10%以上の伸びを予想し、5万4000人程度まで増加するとの見通しを示していた。
加えて、今年のラグビーワールドカップ日本大会、来年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を踏まえて、南アジア、中東などから訪日旅行者の取り込みを狙い、アウトバウンド・インバウンド双方の旅客拡大を期待していた。
同時爆破事件発生後、同日に外務省はスポット情報で注意喚起を発出し、翌日には「不要不急の渡航を控える」ように更新したことから、各社の対応が分かれた。これを「レベル2」(不要不急の渡航は止めてください)に近いと解釈すれば当面の旅行催行を中止するだろうし、現在スリランカに発出している「レベル1」(十分注意してください)にプラスと解釈すれば、ツアー催行は継続する。各社は自主判断で旅行催行の可否を決めた。
海外旅行は飛行機に乗り、空港に降り、バスや鉄道、タクシーなどに乗り、観光地をめぐり、ホテル等に泊まる。これらのすべての場所がテロの標的になりやすいと言われたら、どうすればいいのか。こうした悲劇が起きるたびに、「平和は観光の絶対条件」と思わずにはいられない。「安心・安全」で最初に思い浮かぶのは治安だが、それを含めて「平和」でなくては旅行はできない。
スリランカ同時爆破事件の犠牲者とその家族に哀悼を表するとともに、その解決を願う。旅行業界としてできることは、旅行リカバリー対策だ。慎重に時期を見極め、スリランカの観光関係者とともに、旅行需要回復に協力しなくてはならない。(石原)
19年日本人渡航者数、10%増5.4万人見込む
女子旅始め、広範な旅行需要開拓へプロモ強化
日本からスリランカの渡航者数は2010年以降右肩上がりで成長しており、2018年は前年比約10%増の4万9514人となった。ミーゴリ極東アジア支配人は「今年も10%以上の伸びを見せるのではないか」と述べ、今年は5万4000人程度まで増加するとの見通しを示した。
スリランカの観光ではシギリヤロックを始め、国内に8カ所ある世界遺産観光や、アーユルヴェーダの医療やリラクゼーションを体験するウェルネスツアーにも人気が集まっている。さらに、野生動物の宝庫となっており、サファリとホエールウォッチングが1つの国で楽しむことができる貴重なデスティネーションであることから、同社は日本総代理店のレジェンドリーグスなどを通じて、主要訪問客層であるシニアや女子旅だけでなく、ファミリー客の開拓に向けたプロモーションにも力を入れていく方針だ。
地方路線拡充はJALのネットワークを有効活用
自社運航での羽田−コロンボ線実現に前向き
同社は現在、インドやオーストラリアなどで就航都市の拡充を進めている。また、新規参入エリアとしてケニアのナイロビやイスラエルのテルアビブなどの就航を検討しているという。これらとあわせて日本路線の拡充にも積極的だ。
ファレイド日本・韓国地区支配人は「日本とスリランカの双方向交流が活発になれば、われわれもさらなる事業強化に取り組む。今回の週5便化は将来的なデイリー化が視野に入っている。早ければ東京オリンピックが行われる2020年にはデイリーフライトを実現したい」と力強く語った。加えて「日本路線強化にあたってはさらなるコードシェアが欠かせない」と話す。
コードシェア運航の拡充についてミーゴリ極東アジア支配人は「JALとは非常に良好な関係が構築されている。今後日本の地方とのネットワーク拡充については、JALの運航便を前提に考えていくことになる」と語った。一方で羽田線に関しては「非常に魅力的であるので、スロットが獲得できれば是非検討していきたい」とした。