旅行会社の社会的責任
てるみくらぶの倒産は被害者の人数が多かったことから社会問題化し、旅行業経営ガバナンスワーキングが新設され、既に3回の会合が開かれ、今月上旬を目途に最終とりまとめが行われる予定だ。
あまりの被害者の多さゆえに、現行の弁済業務保証金制度では担保できないことから、弁済業務保証制度のあり方が問われた。しかし、直近の第3回の会合では観光庁から「100%還付が7割8分を占め、妥当性が失われた訳ではない」との指摘があった。
てるみくらぶのような被害額、被害者の多い大型倒産が起きると、現行の弁済制度では全額保証することは難しい。弁済制度を変えることよりも、てるみくらぶのような旅行会社の倒産を未然に防ぐことを考えるべきではないか。
その意味では、ガバナンスワーキングで、5年毎の登録更新以外での経営状況チェック、前受金の収受に関する広告表示ガイドラインへの規定追加などを加えることは重要と思う。
業界内部では以前から、てるみくらぶの経営状況を疑問視する声は多かったが、それが表に出ることはなかった。それは、風評被害につながりかねないだけに当然のことではあるが、結果的には倒産し、一般消費者に多くの被害者を出し、旅行業界の信頼を揺るがせた。そのことを考えると、何らかの対応策があったらと思うのは無理からなぬことだ。
てるみくらぶに、そうした兆しはあったか。てるみくらぶは、日本旅行業協会(JATA)正会員だったが、JATAボンド保証制度に加盟してない。てるみくらぶは、JATA役員などをしておらず、業界団体活動に参加していない。あれだけの旅行取扱額と旅行取扱人数がありながら、JATAでは「アウトサイダー」的な立場だった。
もちろん、ボンド保証会員、JATAの運営役員、国際的な業界活動などをしていた旅行会社であっても倒産はしている。
だが、てるみくらぶの業界における立場は、倒産した格安旅行会社と似たもので、ボンド保証制度の加盟やJATA活動をしていないのは、経営基盤が脆弱であることも要因の一つではないか。
風評被害の恐れもあるので慎重さは必要だが、旅行会社の経営不安を耳にした時に、加盟団体であるJATA、全国旅行業協会(ANTA)がチェックできるような体制はとれないものだろうか。
旅行業界の大半は中小企業であり、一般消費者を相手にしているだけに、その役割は大きく、社会的責任は重い。また、その多くがオーナー社長であることから、ステークホルダーは株主というよりも取引先、従業員、顧客となる。
中小企業のコーポレート・ガバナンスでは、取引先と従業員の役割は重要であり、支払いの遅れや企業内の問題を取引先や従業員が通報する制度が必要かもしれない。
それを通報する機関がJATA、ANTAの旅行業団体、または第三者機関となるのか。それらの情報を精査して、監督官庁の観光庁が処分を決めるというような仕組みがあればと思う。
ただ、これらの対策は非常に有効だが、根本的な解決とは思えない。てるみくらぶ倒産の最大の要因は「自転車操業経営」にあるのは明らかで、取引先は後払い、顧客の一般消費者からの前受で経営をつなぎ、最後に金融機関から蛇口を締められてストップした。
旅行者からは前受金を取り、取引先は後払いでは、倒産の影響は重大だ。前受金の使途明記へ広告表示ガイドラインを改定する案が出ているということだが、取引先の支払いが後払いである限り、この先も旅行会社の倒産は続くことが懸念される。
商慣習を見直すことが難しいことは充分に分かるが、後払いによって日本の海外旅行業が世界から取り残されることを危惧する。日本のアウトバウンドの優位性がなくなりつつある中で、後払いの商慣習は日本の旅行業界の競争力をさらに弱めていくだろう。(石原)