訪日からグローバルへ
訪日外国人旅行者数の増加と相まって、訪日ビジネスが急成長し、異業種や新規の参入が今も引きも切らない状況だ。訪日外国人旅行者の増大に対して、インフラ整備が追いかけているような状況が今も続く。
日本の場合、少子高齢化の時代に、これからの地方をどうするかが最大の課題だが、観光は地方の活性化、地方創生の切り札的な存在に扱われている。観光DMOも一挙に拡大し、地方へ行くとメディアで盛んに取り上げられているが、今は地域のための存在として持ち上げられても、成果が出なければ、一転して批判の的になる。2020年までにある程度の成果を上げないと、五輪後は一挙に萎む可能性もある。
インターネット、FAX、郵便等を通して流れてくプレスリリースの大半は、今やインバウンド関連になりつつある。そして、その発信企業・団体の多くは初めて名前を知るところが多い。「雨後の筍」とはよく言ったもので、とにかく、「インバウンドビジネスに手を付けた、参入した、進出した」という事実がほしいのかと思う時がある。どこに向かって発信しているのか。親会社、取引銀行なのか。これでは長く続かないと思う企業も少なくない。
成長産業にとってこうした乱立期はつきもので、DMOも訪日ビジネス参入企業もこの後に淘汰され、安定期に入っていくのだろう。おそらく、2020年の訪日目標4000万人まではこうした参入と撤退の繰り返しが続くのかもしれない。
ただ、訪日インバウンドが個人旅行化していく過程で、既に淘汰は始まっていて、旅の前段階のウェブサイトは寡占化してきた。この部分は最新技術ともに進んで行くので、技術革新と巨額の投資により厳しい競争が繰り返される。
旅行にとって必須なハードウェアである交通手段、宿泊施設はどうなのか。少子高齢化を迎えて、国内旅行の将来は先細る。
2000年代には国内のホテルチェーンは合理化・縮小を余儀なくされていた。それが、訪日インバウンドの拡大によって息を吹き返し、縮小から拡大に一転して舵を切った。
航空会社も同様である。国際線は海外旅行の低迷でイールド志向に切り替わり、国内線も旅客数の減少で、高需要路線が不採算路線をカバーすることが難しくなる。JALの経営破綻がそれを象徴するが、航空会社はLCCを含めて訪日旅行者の拡大が経営改善に大きく寄与している。
但し、国内旅行が縮小し、訪日旅行も落ち着いてきた中で、成長をどこに求めていくのか。その答えの一つが「グローバル化」なのだろう。
プリンスホテルはオーストラリアのホテルチェーンを買収して、「日本のプリンスホテルから、世界のプリンスホテル」へ市場を世界に求める。既にグローバル化されている世界の大手ホテルチェーンと伍していくのは大変だが、国内・訪日市場の限界が見えている中では、市場をグローバル化する以外に成長はないと見たのだろう。
宿泊業界では、プリンスホテルだけではなく、急成長している星野グループ、アパグループも国内ホテルの拡大と平行して海外進出を図っている。国内・訪日市場が過当競争に入ることを見越して、グローバル化による成長を視野に入れているからだろう。
バス事業も同様だ。日本の高速バス輸送事業の市場を切り開いたウィラーグループは、欧州4カ国のバス運行に参入する。鉄道を使った個人旅行志向の強い欧州で、バス輸送がどのように展開されるか興味深い。これも、国内・訪日市場の限界を考えた上での進出なのではないか。
さて、旅行業界はどうなのか。1990年代からの個人旅行化の流れの中で、JTBは経営改革を進め、グローバル化を進めてきた。分社化そして、来年には再統合など身を切る改革も断行している。HISも脱旅行業やOTA化などを掲げ、グローバル化を進める。事業規模の大きな両企業は市場を世界に求めていく。
実は中小の旅行会社でも、欧州、中東、中南米に進出し始めている企業が出ている。OTAが拡大し、JTB、HISへの系列化が進む中で、旅行会社としての独自性を発揮しながらグローバル化の道を探る企業が出ている。業界の方向性として注目したい。(石原)