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2017.07.24

中国人の欧米志向を引き戻す

 1964年に日本が海外旅行を自由化し、高度経済成長と相まって海外旅行ブームが起きてから半世紀を超えた。中国・北朝鮮を除く近隣アジア諸国、グアム、ハワイ、欧米、オセアニアへと旅行のブームは広がり、開放政策で中国が加わり、今に至る。豊かになるに連れ、やはり憧れは先進国の欧米諸国とそのリゾート、ハワイだった。
 それは日本に限ったことではなく、アジア諸国ならほとんど同じかもしれない。アジアにとって欧米は今も「憧れの地」である。
 訪日外国人旅行者数の第1位は、言うまでもなく中国。2016年は全体の2403万人(前年比22%増)のうち637万人(同28%増)、シェア27%を占める。旅行消費額は3兆7476億円(同8%増)のうち中国は1兆4174億円(同4%増)、シェア41%と4割を超える。2位の台湾が5207億円、シェア15%だから中国市場の大きさが改めて分かる。
 一方で訪米旅行市場だが、かつては日本の後塵を拝していた中国は、訪米旅行者数ではまだ日本の方が多いが、旅行消費額は日本どころか米国と地続きのカナダ、メキシコをも抜きさり、2015年から1位、2016年は前年比15%増の348億ドルに達した。中国人の訪米旅行消費額が訪日旅行全体消費額とほぼ拮抗しているが、中国人の訪米旅行消費額には留学生が含まれるからと言われている。
 米国は訪米旅行者数を2021年までに1億人達成を目指している。とくに、中国からは人数も旅行消費額も年率15%増程度の伸びを予測している。2016年の中国人の旅行消費額の伸びは、訪日が前年比4%増に対して訪米は15%増と高い伸び率を誇る。
 米国は1億人の訪米インバウンド達成するために、中国、そして、その先のインドを見据えているが、それは訪日インバウンドも同様だ。ただ、中国人の旅行先が日本から欧米にシフトしていくことは間違いないだろう。
 ホテルズドットコムが中国人旅行者にアンケート調査した結果によると、今後1年間に訪問したい国で、日本は昨年の2位から7位にランクダウンした。ちなみに昨年の1位はタイだった。
 代わって、フランスが9位から、米国が12位から同数で1位に上がり、中国人旅行者の欧米志向が浮き彫りになった。
 ホテルズドットコムでは、「フランス、米国、カナダ、ドイツなど、より遠い国への旅行意識が高まりつつある」と分析している。
 中国人の海外旅行ブームはますます勢いを増しており、1年間に海外旅行に行った回数は、昨年の年3回から年4回に増加した。1回の旅行日数も昨年の5日から7日へと増加しており、1回の旅行が長期化している。
 さらに、中国人旅行者は1回の旅行で複数都市を訪れる傾向にあり。80%以上が1回の旅行で複数の都市に滞在すると回答している。
 旅行の回数が増え、旅行が長期化する。さらに広大な土地の複数都市をめぐるとなると、欧米の旅行が増えてくることが予想される。日本をはじめ近隣のアジアは不利を強いられるかもしれない。
 だが、中国人旅行者が最も歓迎を受けたと感じた国は、タイが5位から1位に躍進し、昨年1位の日本は2位に下がったが、こちらは上位を維持した。訪日中国人旅行者の9割が日本の旅行に満足したとの結果が出ており、満足度をさらに高めることが欧米との中国人獲得競争の打つ手ではないか。
 日本の宿泊施設に対する中国人旅行者の要望では、無料Wi-Fiの充実が74%と最も多く、次いで朝食の改善55%、中国語を話せるスタッフ31%、中国語の資料24%と続く。訪米のホテルは無料Wi-Fiの整備が実は遅れている。日本の宿泊施設はホテル・旅館を問わず、無料Wi-Fiの整備を急ぐべきだ。今や、各部屋に無料スマートフォンを貸し出すサービスも出てきている。
 個人旅行化が進む中で、旅行消費で求めるものはショッピングからダイニング、観光、リラクゼーションにシフトしている。日本人の海外旅行嗜好と急速に近づいている。欧米への流れを日本に引き戻すには、奇を衒うのではなく、日本の魅力に磨きを掛けることだ。(石原)