観光と基地
国際連合が1967年を国際観光年とする決議で、「観光は平和へのパスポート」をスローガンに掲げた。これ以降、観光の意義として、この言葉は幾度となく引用される。しかし、観光がテロや政治問題に大きな影響を受けることも事実である。
北朝鮮によるグアムへの弾道ミサイル発射に関する声明で、このことが真っ先に浮かんだ。
グアムは日本の有数の海外旅行目的地であり、昨年も75万人の日本人がグアムを訪問している。グアムの2016年の年間旅行者152万人のうち日本から49%、韓国から36%と日韓両国からの旅行者が85%を占める。
そのグアムからテノリオ副知事とデナイトグアム政府観光局長が来日し、グアムの観光の安全性を強調した。日本での過熱報道を見れば分かる通り、今にもグアムが攻撃を受けるような報道は、風評被害の何物でもない。
現段階で日本からのパッケージツアーのキャンセルなどの影響は出ていないが、最も懸念されるのが今後のMICEや教育旅行への影響だ。
日本から韓国への教育旅行は、日韓の政治問題に加えて、北朝鮮のミサイル発射の影響を大きく受けて激減している。今回のグアムへの北朝鮮ミサイル報道で、学校関係者やオルガナイザーがグアムへのMICE、教育旅行に影響が出ないように、日本とグアムの観光関係者で協力体制を敷いて、影響を払拭することが必要だろう。
今回の件で、最も強調したいことは、これはグアムだけの問題ではないということだ。日本の防衛は日米同盟が基軸であり、北朝鮮がグアムをミサイル射程に置くということは、日本もその射程内にあることは言うまでもない。
米国内におけるアジアの最前線基地はグアム準州だが、日米同盟下では沖縄になる。北朝鮮のミサイル攻撃声明が「グアム」ではなく「沖縄」だったら、日本国内は大騒ぎとなり、沖縄観光への影響は避けられなかっただろう。
また、米国50州のアジア太平洋の最前線基地はハワイである。北朝鮮の弾道ミサイルはハワイが射程内に入っていると言われる。もし、北朝鮮のミサイル攻撃声明が「グアム」ではなく「ハワイ」だったら、アメリカ中が沸騰し、緊張感が走り、米本土市場が主力のハワイ観光は影響を受けたかもしれない。
北朝鮮は今回はグアムを標的としたが、それが沖縄、ハワイの可能性もあり、今回の一件はグアムだけの問題と捉えるべきではない。グアム、沖縄、ハワイが有数の観光地であると同時に、軍事的拠点であることも忘れてはならない。
さらに言えば、北朝鮮が日本全土にある米軍基地、自衛隊基地を狙えば、無数のミサイルが日本に飛来する。その能力があればだが、北朝鮮の政府系新聞は、日本が軍事力を拡大するなら「日本に大惨事をもたらす」と警告している。
日本に住んでいても、国内、海外、どこに行っても、何も起こらないかもしれないし、何が起きるかも分からない。
まずは冷静に事実を把握することだ。来日したグアム準州のテノリオ副知事は、記者会見で、グアムは4段階の警戒レベルのうち今も最低のレベル4で、北朝鮮の声明以降も一度も引き上げていないことを強調した。同時に、グアムの地元住民も観光客も通常通りであることを指摘した。
また、テノリオ副知事は、トランプ大統領とカルボ知事、米国防総省とグアム国土安全保障・市民防衛室の間で、グアムの安全が保障され、「多層防御体制が整っている」と説明した。
前述のとおり、グアムのような軍事的拠点は、攻撃と同時に防衛の要であり、逆説的に言えば、最も高度な防衛体制が構築されている。その意味で、グアムの安全レベルは非常に高い。(石原)