クオリティ・ツーリズム
2016年の日本人海外旅行者数は、前年比5.8%増の1712万人と4年ぶりにプラスとなり、「海外旅行復活の年」を印象づけた。ただ、OTAの成長が目立ち、旅行会社の取扱額、取扱人数が低迷したことが大きな課題だった。
こうしたことを受けて、日本旅行業協会(JATA)は今年に入り、アウトバウンド促進協議会(JOTC)を2月に設立した。大使館、政府観光局、航空会社、ツアーオペレーターなどと協力して、悲願の海外旅行2000万人に向けて、アウトバウンド拡大に取り組む。JOTCではヨーロッパ、中近東・アフリカ、北中南米、アジア、オセアニア大洋州、東アジアのエリア毎の各チームが需要喚起策や新たな商品造成などについて会合を重ねている。
東アジアでは、韓国観光公社(KTO)などと協力して、来年2月の平昌オリンピック・パラリンピックに向けてセミナーを開催。また、ヨーロッパでは欧州旅行の需要喚起に向けて、「ヨーロッパの美しい街道・道20選」を決定した。在日大使館、観光局、ツアーオペレーターなどから寄せられた企画素材の中から審査を行い、ヨーロッパ13カ国から選定した。
8月下旬には、北海道大学観光学高等研究センターとの共催により、北大で「海外教養講座」を開催、海外の歴史世界遺産やエコツーリズムなどをテーマにしたセミナーを実施した。北海道は外国人訪問客数が増加している一方で、道民の出国率は5.3%と低迷しており、道民に海外をより身近に感じてもらうために開いた。
また、アウトバウンド促進協は8月下旬から12月まで、デスティネーションセミナーを9本開催。既に南太平洋と北アフリカ・マブレブ諸国のセミナーは開催された。各国大使館、政府観光局、日本ツアーオペレーター協会(OTOA)の協力を得て、このセミナーはアウトバウンド促進協の活動の中でも重要な存在となる。
とくに、セミナーのテーマを「プランナーのための新しいトレンドをつくる、プロの視点」としており、旅行のプロフェショナルとしての「旅行会社」が強調されている。
最近は「クオリティ・ツーリズム」という言葉をよく耳にする。旅行業界のキーパーソンからも、観光局のセミナーでもよく強調される。
OTAは旅行の素材を提供するだけだが、旅行会社は素材を組み合わせ、旅行を造り上げる。それには、クオリティの高さとクリエイティブさが求められる。
海外では近年、旅行者数よりも旅行消費額を重要視する傾向にある。富裕層に代表される高品質の旅行がより求められている。日本も同様で、2020年の訪日旅行者数4000万人の目標は高いが、それよりも旅行消費額8兆円の達成の方が道は険しいだろう。
クオリティ・ツーリズムの主役は旅行会社だ。そこに旅行会社の存在価値、存在理由がある。今年のジャパン・ツーリズム・アワードで、アサヒトラベルインターナショナルが「50年にわたる教育旅行に特化したマーケットの拡大」で海外領域ビジネス部門部門賞を受賞した。
また、JTB首都圏ロイヤルロード銀座は「高品質旅行の先駆的な取り組みとして、昨年30周年を迎えた高品質オーダーメイド旅行」に対してビジネス部門努力賞を受賞した。
ワールド航空サービス社長・会長として高品質旅行を手掛ける菊間潤吾JATA副会長・JOCT会長は、フランスからレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを叙勲される。こうしたことは旅行業の地位を高めるとともに、旅行業に携わる人々の励みになる。
9月21日に開幕するツーリズムEXPOジャパンでは、アウトバウンド促進協の第2回目の全体会議と特別セミナーが開催される。今年のツーリズムEXPOジャパンの業界テーマは、“創ろうツーリズムの「新しいカタチ」”。独自性と創造性豊かな「クオリティ・ツーリズム」が旅行会社の原点であり、あるべき形であることをツーリズムEXPOの場で共有、再認識したい。(石原)