訪日旅行の需要落ち着く
日本人海外旅行が好調に推移している一方で、訪日外国人旅行に陰りが見えている。かつては、アウトバウンド一辺倒だった国が、逆転してインバウンド一辺倒に振れたが、ここに来て、インとアウトの格差が縮まろうとしている。
貿易摩擦を見ても分かる通り、過度の黒字や赤字は政治問題に発展する。貿易ほどではないにせよ、観光もあまりに二国間で格差が広がるのは良くない。双方向の観光交流拡大をめざすなら格差が縮小することは、それはそれでありではないか。
ただ、政府目標に訪日外国人旅行は2020年4000万人、2030年6000万人が「金科玉条」のようにある。現状の伸びでは、20年の4000万人にも少し陰りが見えてきた。1年前なら20年の観光消費額の目標8億円の達成は厳しいが、4000万人はクリアできると思われていた。
ここに来ての急停止は何があったのか。昨年は自然災害が訪日旅行のマイナス要因に上げられたが、今年は難しい状況を迎えているようだ。まず、4大市場の韓国・中国・台湾・香港が鈍化し始めていることだ。とくに、韓国と香港は1-4月累計で前年を割っている。
4月単月だけなら、日本のゴールデンウィーク10連休で旅行代金が上がっており、それで訪日旅行を手控えたという味方ができるが、月を追うごとに鈍化しており、訪日旅行そのものが落ち着いてきたという見方もできる。
また、海外旅行が予想以上に伸びたので、需要はあっても供給が厳しくなったという指摘もある。しかし、これまで訪日旅行の拡大で、海外旅行の供給が逼迫していると言われ続けており、ここに来て、訪日の供給量が足りないというのは無理があるだろう。
むしろ、これまでの訪日の伸びが「ブーム」であって、需要が落ち着いてきたと見るのが妥当ではないか。ビザの規制緩和などの措置とアジアの経済成長で伸びてきたが、ここから4000万人に向けてどうやって伸ばすか、観光行政の手腕が問われるところだろう。
また、「訪日旅行ブーム」に乗って、訪日ビジネスに進出した企業も、需要が落ち着く中で、どうやってビジネスを展開していくのかが注目される。
かつてインバウンドの関係者は、「ブームの時は雨後の筍のようにプレイヤーが現れるが、ブームが去った時に残るプレイヤーがインバウンド業界をリードする」と語っていた。その時期がもうすぐ到来するのかもしれない。
田端観光庁長官はGW期間の訪日インバウンドの動きについて、「日本人旅行者が増加する一方で、訪日旅行の動きが鈍化することは、想定はしていたものの、痛し痒しの状況だ」と総括した。日頃から双方向交流の拡大を掲げてきた長官からすれば、アウトバウンドの回復、成長は良かったが、インバウンドの減速は来年のオリンピックイヤーに向けて対策が急がれる。
長官が指摘するように、GW期間の訪日旅行の鈍化は、東京一極集中による航空座席の供給、旅行代金の上昇が問題になった。とくに、アジアからの訪日旅行の動機の1つに、LCC利用などによる「低価格」があり、それが高いと旅行手控えや近隣アジアの国々にシフトすることになる。
今年の訪日旅行の傾向を見ると、アジア諸国からの伸びは鈍化し、韓国や台湾のように前年比マイナスのところも出ているが、一方で、欧欧米豪市場は堅調に伸びている。
とくに、4月は記録的な伸びを示しており、その意味で、GWの航空座席逼迫も旅行価格の上昇も、欧米豪で影響はなかったといえる。欧米豪市場が拡大すれば、旅行消費額も伸びる。
訪日観光の首都圏、大都市圏集中を地方へ分散化するためには、地方に魅力ある観光素材の開発に尽きる。米国で各州の特性が思い浮かぶように、日本の各地方の独自性が問われる。
スキー・スノーボード、酒蔵、温泉など包括的なツーリズムも大事だが、その地域にしかない魅力の掘り起こしがより重要ではないか。訪日旅行の需要が落ち着いたところで、アクションプログラムで、地方観光のあり方について見直すことも必要だろう。(石原)