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2019.06.24

JNTOとDMOの未来

 政府は、「観光ビジョン実現プログラム2019」を決定した。柱は、「外国人が楽しめる環境整備」「地域の新たな観光コンテンツの開発」「日本政府観光局(JNTO)と地域DMOの適切な役割分担と連携強化」「出入国の円滑化」の4つ。
 この中でも、「世界水準のDMOのあり方に関する検討会」で議論が対立したJNTOとDMOの役割分担は、JNTOが各地域の情報・魅力を海外に向けて一元的に発信し、DMOは外国人向けの環境整備、地域の新しいコンテンツ開発など着地整備を主体とすることが明記された。
 DMOは新たな観光素材などの写真や動画などのツールを作成し、JNTOがそれらを生かして、海外へ一元的に発信する。いわば、プロモーションに関しては、DMOはJNTOの下請け的存在となり、プロモーションはJNTOに委ねることになる。
 米国を例にとると、ブランドUSAは米国全体のプロモーションをグローバルに、各国ごとに展開するが、各州や地域の政府観光局(DMO)は個別のプロモーションを併行して実施する。カリフォルニアやラスベガスを見ても、日本市場の取り組みは独自のノウハウと蓄積があり、地域の個性に見合ったプロモーションを展開している。
 全米50州と有力な都市のある米国、全国47都道府県と大都市のある日本。東京、大阪、京都はもとより、個性ある観光地を持つ自治体、DMOは、プロモーションをJNTOに一元管理されることを良しとするのだろうか。
 例えば、「大阪都構想」を掲げる大阪府・市は、仮にIRの誘致に成功すれば、規模は違うが、ニューヨークとラスベガスが一つの州に同時にあるようなもので、「大阪都」は世界中に独自で誘致プロモーションを展開したくなるのではないか。
 米国を見ると、観光産業の成長は競争と協調の両面から成り立っているように思う。ESTAを財源とするブランドUSAでは、各DMOが協調して取り組むが、個別プロモーションでは他のDMOが競争相手となる。当然、予算の潤沢なDMOと乏しいDMOでは誘致する人数、滞在消費額で差は出る。しかし、その競争が米国観光産業の活力に思える。
 日本はこれから「世界水準のDMO」をめざすという。その段階に達するまでは、海外プロモーションはJNTOが一元管理して面倒みようということなのかもしれない。とくに、有力DMOが独自にプロモーションを展開すれば、大都市と地方の観光格がも拡大することが懸念される。地方創生を推進するために、プロモーションをJNTOの管理下に置いたのかもしれない。
 地域には、これまで培ったプロモーションの方法とノウハウがある。海外プロモーションに成功したDMOもある。JNTOのプロモーションを抵抗して、自由に展開したらいい。
 アメリカのプロモーションのように、全体と個別のバランスがとれないものか。そこまでDMOのプロモーションを抑制して、JNTOの「一元化」にこだわる理由が分からない。一元化するよりも両者が展開することで、相乗効果が発揮できることもあるのではないか。
 JNTOの海外情報発信、プロモーションの一元化を行うため、JNTOの体制を見直し、抜本的な体制強化を図る。DMOが世界水準になる前に、JNTOが世界水準の政府観光局にしようということなのだろう。その先に何があるのか注目したい。(石原)