中国と香港、マカオは違う
外務省は去る1月31日に中国全土と香港、マカオに感染症危険情報をレベル2の「不要不急の渡航は止めてください」に引き上げた。武漢市を含む湖北省についてはレベル3の「渡航は止めてください」(渡航中止勧告)を継続した。これにより、旅行各社は中国本土と香港、マカオを訪問するツアーの催行を軒並み中止にした。当然のことながら、香港とマカオは日本市場向けのプロモーションを全て凍結した。
外務省は湖北省を除く中国全土と香港・マカオに対して、1月21日に感染症危険情報レベル1の「十分注意してください」を発出していた。WHOによると、1月21日時点の感染症例は世界で282件、中国湖北省258件、広東省14件、北京市5件、上海市1件で、香港とマカオには出ていない。タイ2件、日本、韓国に1件発症している。
湖北省を除く中国全土と香港、マカオの感染症危険情報をレベル2に引き上げた1月31日時点の感染症例は世界で9826件に拡大し、中国は9720件と急激に増加した。日本はタイと並んで中国以外では最も多い。
中国全土をレベル2に引き上げたことは理解できる。しかし、この時点で香港、マカオの感染症例は日本よりも少なかった。香港、マカオは特別行政区だが、外務省はあくまで「中国」として、レベル2に引き上げたとされる。
確かに、香港、マカオは中国に返還されたが、「一国二制度」を堅持している。香港のデモの状況を見ても「一国二制度」は揺らいでいるが、今回の措置は、日本政府が「一国二制度」を否定しているようで残念でならない。中国と香港、マカオの新型コロナウイルスの感染状況は全く違う。
中国への渡航制限は各国・地域で対応が分かれている。どうも中国に配慮している国々が中国間の渡航制限に香港、マカオを含めているようで、毅然として中国本土に渡航制限を限定している国もある。
WHOによる2月4日時点の新型コロナウイルスの感染症例は、中国全土で2万471件、うち湖北省が1万3522件、浙江省829件、広東省829件、北京市228件、上海市208件と100件以上を超えているが、香港は15件、マカオは8件と水際対策が功を奏している。
香港特別行政区政府は中国との出入境ポイントを香港国際空港、港珠澳大橋、深セン湾の3カ所に限定し、マカオはIRのカジノ閉鎖、イベントを中止するなど、新型コロナウイルスの感染防止対策をさらに強化している。
同じ2月4日時点で、日本の感染症例は20件で、中国本土以外では最も多い。これはダイヤモンド・プリンセスで発症した件数が入っていないことから、今後さらに件数は増加することが予想される。
このまま、日本の感染症例が増加すれば、日本が各国・地域から渡航制限を受ける可能性がある。実際、ミクロネシア連邦は日本を新型コロナウイルスの汚染国として、14日間ルールを適用した。香港、マカオが感染症例の多い日本に対して渡航制限してもおかしくない。
既に、日本の感染症例は2月5日には33件と一挙に増加した。日本に次ぐのがタイの25件で、その差が開きつつある。
日本は中国からの旅行者の最大の目的地であり、2020年の訪日インバウンド4000万人の最大市場である。とくに、春節(旧正月)という中国からの訪日旅行のピーク時に新型コロナウイルスが発生したことが、感染症例が増加した最大の要因とみられる。
諸外国は、中国の感染症例の拡大をみながら渡航制限を出している。とくに中国本土への新型コロナウイルスの広がりを見ながら対応している。香港、マカオではない。中国本土への対策を強化することが必要だ。(石原)