大手・中小が連携する時代へ
2019年の日本人海外旅行者数が2008万671人と2000万人を達成したことは、一つのエポックメイキングと考える。2000万人に近づいた2001年、2012年とは旅行業界が取り巻く環境は変わったとはいえ、長く目標にしていた「海外旅行2000万人」を突破したことは、ここを節目として「ポスト2000万人」の次のステップを踏み出したことを意味する。
田川博己JATA会長は、本特集のインタビューで、「海外旅行者数よりも、出国率20%が一つの指標になると思う。今の出国率は15%程度だが、それを20%に引き上げたい。人口が減少しても20%は切らないようにする」との考えを示した。
内閣府は、少子化が進む中で日本の人口は2053年に1億人を割って9924万人、2065年は8808万人まで減少すると試算していいる。出国率20%は、1億人の人口で2000万人。その頃には、日本では欧米並みに外国人を受け入れているかもしれないが、それはともかく2000万人をベースとすることが今後の方向性と理解した。
出国率を見ると、2018年の海外旅行者数は1895万人で、出国率は15.3%。JTBによると、海外旅行の1人当たりの平均旅行回数は1.5回で、これは過去15年変わっていないという。
年間の旅行回数を1回とした実質海外旅行者数による実質出国率は過去最高の10.1%。海外旅行者数が増えて出国率が高まれば、実質出国率も上昇する。したがって、2000万人を達成した2019年の実質出国率は過去最高となるはずだ。
地方発のアウトバウンド商品拡大
チャーターと羽田増便と地方活性化
出国率の話になると、地方の出国率の低さが必ず課題として挙げられる。2018年の全国平均は15.3%だが、東京が30.4%で突出し、神奈川も21.9%で、首都圏や関西圏などの大都市圏が平均出国率を押し上げており、一方で、地方7県が5%を下回る。つまりは、地方空港の出国率を上げることが、海外旅行者数を今後拡大するための必須条件となろう。
JATAアウトバウンド促進協議会(JOTC)の菊間潤吾会長は、地方の出国率向上について、「地方自治体、地方空港との連携」を挙げた。地方都市と海外の姉妹都市をチャーター便で商品化するなどチャーター便就航のためのコンソーシアムの重要性を指摘した。
首都圏発では、旅行会社がコンソーシアムを組んで、ウズベキスタンやイスラエルへチャーター便商品の催行を成功させており、それが定期便の開設につながった。その意味で、地方のチャーター便運航、その後の定期化は出国率を高め、地方の国際化、政府目標の「地方創生」につながる。チャーター便を商品化する旅行会社の役割は、非常に大きいと言える。
また、3月下旬の夏期スケジュールから羽田国際線が増便され、羽田国際化が新たな時代を迎える。これによって、地方からの海外旅行が拡大することが期待される。
地方からのチャーター便と地方から羽田経由定期便によって地方からのアウトバウンドが拡大し、一方で、海外から地方へのインバウンドも促進する。地方の双方向交流が地方活性化、ひいては「地方創生」に結びつく。
こうした地方発の国際チャーター便や地方発羽田経由定期便を利用した旅行商品は、旅行会社しか造成できない。同時に、これは旅行会社が観光局、航空会社、ホテルなどと連携したデスティネーション開発の取り組みでもあり、こうした仕組みを全国で展開することを期待したい。
次代担う若者の海外旅行を促進
体験プロジェクトで青少年交流
次に、2018年の出国率を年代別構成で見ると、20〜24歳29.1%、24〜29歳28.0%と20代の若者が最も高く、若者が海外旅行に出掛けているいことがよくわかる。とくに女性は24〜29歳40.4%、25〜29歳33.9%と男性よりも10ポイントほど高く、海外旅行を牽引しているのは、この年齢の若い女性であることを改めて証明した。
一方で、海外旅行を牽引したシニア世代の出国率は、70歳以上が4.1%、65〜59歳が11.3%と平均を下回る。とくに、団塊世代が70歳を迎え、今後、海外旅行への足が遠のき始めることが懸念される。
若い世代に対してJATAでは、昨年から「ハタチの一歩 20歳 初めての海外体験プロジェクト」をスタートさせ、今年は2年目を迎える。若者のアウトバウンド活性化は、国の「観光ビジョン」の政策の一つであり、海外への教育旅行、体験旅行などを通じて「青少年交流」を促進することが予算化されている。「ハタチの一歩」は文字通り、青少年国際交流の第一歩であり、旅行会社による若者のための「海外交流体験商品」は、官民一体のプロジェクトの重要な柱となるだろう。
海外旅行2000万人の達成は、OTA(オンライントラベルエージェント)の台頭とLCC(ローコストキャリア)の存在を抜きにしては語れない。確かに、20年前、10年前と比べると、旅行会社の取扱額は相対的に減少している。
とくに、大手旅行会社の募集型企画旅行は、OTAの影響を受けているが、独自の旅行に特化した中小旅行会社のツアーは健闘している。
田川JATA会長は、「1社が何かをする時代は終わり、大手旅行会社と中小旅行会社が結集して、デスティネーションを売っていく。JATAにその役割が求められる時代になり、その役割の中核をJOTCが担う」と語る。
また、菊間JOTC会長は、前述の大手と中小旅行会社のコンソーシアムによるチャータ便商品の展開など、大手旅行会社と中小旅行会社の協力が今後は不可欠であることを指摘している。
ツーリズム業界はかつてないほど、官民連携による双方交流の拡大を進めている。インバウンド一辺倒から変わり、チャーター便、定期便の運航、デスティネーション開発、観光インフラ整備、青少年交流、地方活性化と、アウトバウンド・ツーリズムの重要性は高まっている。経営環境は厳しいが、次のステップに向けて、観光交流の担い手としての旅行業の役割に期待したい。(石原)