記事検索はこちらで→
2018.07.05

WING

ANA国内線、7日間で計113便もの大量欠航発生へ

Trent1000技術問題の影響拡大、点検増・部品供給逼迫で

 全日空(ANA)は7月6日〜12日までの7日間、787型機搭載用エンジンであるTrent1000エンジンの技術的な問題を受けて、国内線で合計113便(1日16便:8往復)もの大量欠航を欠航することを決めた。羽田空港を発着する伊丹、関西、福岡、新千歳、広島、岡山、秋田、小松など、羽田幹線路線を中心に欠航する。さら、7月9日〜12日の4日間に運航する羽田ー石垣線のANA89便(羽田06時10分→石垣09時00分)は出発・到着時刻が遅延する見通しだ。
 ANAによれば、欠航・遅延便対象の予約を有する旅客に対しては、7月4日からEメールや電話、旅行代理店などを通じて案内を開始しているという。この問題の影響を受ける旅客数は2万1000名にのぼる見通しだ。
 ただ、更なる欠航・遅延などの影響拡大も懸念されるところで、「影響について現在精査中」(ANAマーケティング室ネットワーク部担当部長:浜田真部長)とコメント。「13日以降、極力欠航が発生しないように、代替機種を使った調整をしている」段階にあることを明かした。万一、13日以降に影響が拡大するようならば、遅くとも7月9日頃にはあらためて説明するとしている。
 なお、ロールス・ロイスに対して発生したコストや補償を求めていくかということについては、「調達部門、法務部門が現在検討しており、今後判断していく」とのこと。「追加費用については、現在精査中」としている。

 

 新たにパッケージBも点検対象に
 ANAはC・B合計で136台保有

 

 Trent1000エンジンで今回発生しているそもそもの技術的な問題は、低圧圧縮機を通った空気が中圧圧縮機に流入する際、空気が微妙に乱れることで第1段・第2段に取り付けられているブレードに振動が発生してしまうというもの。この振動がブレードにヒビが生じることが懸念されており、設計上の問題とされている。すでにロールス・ロイスは共振しないような新設計の改修型ブレードの開発に乗り出しており、現段階ではっきりと固まってはいないものの、来年の早い段階で新設計ブレードの供給がスタートする見通しだ。
 この問題が指摘されたことで、主として787-9型機に搭載されているTrent1000エンジンパッケージCに対して、中圧圧縮機の8段あるうちの第1・2段ブレードにヒビが入る恐れがあるとして、今年4月に同エンジンメーカーのロールス・ロイスが技術指示を、欧米当局が耐空性改善命令(AD)を出し、日本の航空局も耐空性改善通報(TCD)の発出。この措置を受けて、同エンジンを運用するANAはパッケージCエンジンの追加点検作業の実施を余儀なくされていた。
 ANAが保有するパッケージCエンジンの保有台数は66台。点検を実施し、不具合が見つかった部品の交換を実施して、欠航を出さないように代替機や機種変更で対応していた。
 ただ、そこに新たに主に787-8型機に搭載されているTrent1000パッケージBエンジンについても同様の懸念が浮上。6月にはパッケージBを対象としたTCDが発出されており、ANAにおける点検対象となるエンジンがパッケージCの66台から、パッケージB70台を加えた計136台に増加したことで点検作業が増大した。
 さらにANAのみならずTrent1000エンジンパッケージC・Bエンジンを運用する世界のキャリアにおいて、エンジン部品の交換作業などが進められていることから、交換部品の供給が逼迫しており、ANAとしてもエンジン交換部品を入手しずらい状況が続いていることも重なって、最終的に今回の大量欠航を引き起こしたかたちだ。

 

 C・Bエンジンで点検作業進む
 ブレードに亀裂がみつかるエンジンも

 

 Trent1000エンジンは低圧・中圧・高圧の3段構成になっていて、このうち今回問題となっているのは中圧圧縮機。中圧圧縮機は8段あって、第1、第2段のブレードに設計上の技術的な問題が発生した。中圧圧縮機の各段には1段あたり約70-80枚程度付いているが、これらの回転翼をすべて点検しなければならない。
 航空局のTCDの中身をみてみると、4月に発効されたパッケージCのTCDについては、中圧圧縮機1段ブレードに関しては、超音波を使って繰り返し点検が求めており、一方の第2段ブレードはボアスコープを使った目視点検に加えて、超音波による繰り返し点検を行うことが指示されている。 
 ANAでは第1段ブレードについては、初回点検を7000飛行時間、1200サイクル以内に点検することとし、200サイクル毎に繰り返し点検を実施している。一方、第2段ブレードについては、初回にボアスコープ点検を300サイクルの時点で実施して、80サイクル毎に繰り返し点検を実施している。
 6月にあらたに発出されたパッケージBに対する点検指示については、第1段ブレードについて超音波による点検を実施し、第2段ブレードはボアスコープおよび超音波による点検を行うことを求めている。ANAは第1段ブレードについては、AD発効日(6月13日)から30日以内もしくは60日以内に点検を実施することを求めており、2段ブレードについてはAD発効日より30日以内に点検することを求めている。
 ANA整備センター技術部の原田茂部長によれば、「機体点検は1日ないし2日で終わるが、不具合が発見されてエンジン部品交換をするまでにはだいたい20日を要する」という。
 その上で、「パッケージCについては初回点検を終えて繰り返し点検に既に入っている。モノによっては3回目の点検をはじまろうかという段階」にあることを明かした。一方パッケージBについては、1段・2段ブレードの点検作業があって、前述したように1段ブレードで超音波、第2段ブレードでボアスコープおよび超音波点検を実施しなければならず、7月4日現在、全ての点検を完了したエンジンはまだないようだ。
 原田部長によると、「パッケージCについては中圧圧縮機1段ブレードについては58回点検しており、そのうち10台で亀裂が見つかった。2段ブレードについてはボアスコープ点検を213回実施しており、19台で亀裂が発見されている」ことを明かし、亀裂が見つかったブレードについて交換作業を実施したという。第2段ブレードの超音波検査でも「14台のエンジンで検査を実施済みで、そのうち2台のエンジンで亀裂が発見され、交換作業を実施している」とのことだ。
 一方、パッケージBにおける点検作業は、「中圧圧縮機第1段ブレードの超音波検査は12台で実施済みで、2台で亀裂が発見された。第2段ブレードに関してはボアスコープを使った目視点検を43台で実施しており、不具合は発見されなかった。超音波検査は33台で完了しており、1台で不具合がみつかった」という。

 

 来年3月受領の787-10への影響無し

 

 そうしたなかTrent1000ファミリーの最新派生エンジンであるTrent1000-TENエンジンを、ANAは今後導入する。来年3月に787-10型機を受領するためだ。
 原田部長によれば、「我々は既に予備エンジンとしてTrent1000-TENを数台保有しているが、TCDの対象にはなっていない」と前置きしながら、「TENエンジンでは設計が変わっており、確認したところ、今回問題となっているブレード共振の心配がないことが明らかになった」としており、来年3月に受領する787-10型機の受領スケージュールへの影響はないとの見解を示した。