記事検索はこちらで→
2018.07.13

WING

JAXA、高高度滞空無人機で目標構造重量クリアに目処

スパンローディング設計と脱オートクレーブ技術など寄与

 

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は現在、宇宙航空一体の災害監視システムおよび通信プラットフォームとして、高高度滞空型無人機の研究開発を進めている。JAXAがこのほど明らかにしたこれまでの研究成果によれば、高高度滞空技術の確立に向けて、双胴化によるスパンローディング設計と、既存のオーブン成形用プレプリグを使って、脱オートクレーブ技術を使った大物一体成形をすることで、目標とする最大離陸重量(MTOW)に対する構造重量比25%とする目処を得ることに成功。さらに、高空過給エンジンシステムの動的シミュレーションモデルを開発したほか、原型エンジンシステムを試作して、地上運転試験によりシミュレーション結果を検証したことを明かした。
 JAXAとしては今後、社会動向を踏まえつつ、飛行実証試験及びミッション実証試験に向けたユーザや関係機関などとの連携強化を図っていきたい考えだ。
 先ごろ発生した平成30年7月豪雨は豪雨災害は広範囲に亘る被害が発生しており、各所でインフラが寸断されるなど、その全容解明には至っていない。こうした豪雨災害だけでなく、地震や津波、火山噴火といった様々な災害に対して、JAXAが研究開発を進めている高高度滞空型無人機が実用化されれば、防災・減災などに向けて新たな視点でアプローチすることができるようになるかもしれない。

 

自然災害の多い国・日本
常時観測監視で安全安心を

 

 巨大地震や火山噴火、台風やゲリラ豪雨などによる水害など、日本は自然災害の多い国だ。加えて、周辺空域や海域では近隣諸国との安全保障問題を抱えている。こうした様々な脅威に対して、適確な情報収集が求められており、宇宙空間にある衛星はもちろん、航空機を活用した観測・監視ミッションが活用されてきた、ただ、そうしたツールには”弱点”もあって、例えば衛星はその軌道によって観測が制限されてしまうほか、最近ではかなりの高分解能化が進んだとはいえ、航空機による観測と比べると、分解能が不足する。一方、航空機は詳細な情報を取得することができるものの、衛星に比べると高度が低いことから、その観測範囲は狭い。さらに、悪天候時などには飛行することがそもそもできないケースも少なく無い。
 こうしたなかJAXAでは、悪天候、あるいは昼夜を問わず、観測することが可能な高高度滞空型無人機システムを実現すべく、研究開発をスタート。悪天候の影響を受けない高度16.5キロメートルもの高高度に、72時間以上もの長時間滞空することが可能な無人航空機システムを実現することで、衛星・航空機のミッション能力を補完・補強。新たな観測・通信プラットフォームとして防災や安全保障など、日本が直面する社会課題の解決に貢献することなどを目指す。

 

JAXAが考える高高度滞空型無人機とは?

 

JAXAが考える高高度滞空型無人機のシステムコンセプトによれば、2機のローテーション運用(自動飛行)によって日本の排他的経済水域(EEZ)内の任意の海域もしくは陸域において昼夜・天候によらず24時間・365日の連続ミッションを実現可能な監視・観測/通信中継システム。その運用高度は高度16.5キロメートル以上、巡航速度は時速280キロメートル以上、滞空時間72時間以上とすることを目指す。
 JAXAはこの機体にスパンローディング・脱AC成形による軽量機体構造を適用する。具体的には双胴化することでスパンローディング(翼幅荷重分散)設計とすることを目指す。既存のオーブン成形用プリプレグを用いた脱AC(オートクレーブ)大物一体成形を試行し、材料試験及び部分要素試験により設計許容値を求め、全機構造設計によって目標とした最大離陸重量に対する構造重量比25%の目途を得た。
 またレシプロエンジンに複数のターボチャージャを組合せた高空過給エンジンシステムを開発することを目指す。そこで多軸ジェットエンジンのシミュレーション技術をもとに過給システムの動的シミュレーション・モデルを開発し、地上から高度18kmにおけるおける広範な条件において安定的に作動することが可能であることをシミュレーション解析によって確認した。
 さらにHKS700T(国産のLSA用700ccガソリンエンジン)をコアとする原型エンジンシステムを試作し、低圧環境を模擬した地上運転試験によりシミュレーション結果を検証もした。今後の課題として、実用エンジンに対するシミュレーション及び概念設計への取組みが必要となるとしている。
 また、高高度を長時間に亘って滞空し続ける無人機の運航技術も獲得しなければならない。そこで非常時対応を含む運航手順・方式を具体化するとともに、通信や操縦方式、航空交通管制への対応、衝突回避等の課題を識別し、シミュレーションにより飛行性、操縦性及び着陸時における伝送遅延の影響等を確認するなど、研究開発を進めているという。
 その他、投入可能性のあるミッションについて検証もしており、例えば、豪雨による土砂災害防止ミッションに必要なリピートパス干渉SARによるcm級地殻変動監視や併用化ライダーによる水蒸気流束観測、ミリ波による高速データ伝送等について実現性を確認した。さらに、豪雨による土砂災害防災(地盤監視・気象観測)、海洋監視、大規模広域災害対応などについて、そのシステムおよび運用コンセプトを具体化した。

 

※画像=JAXAが研究開発中の高高度滞空型無人機のイメージ(提供:JAXA)