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2021.01.07

WING

航空局幹部年頭所感、コロナ禍も「全力で支援」

重視する3つの制度改正、引き続き航空需要拡大推進

 国土交通省航空局はこのほど新年を迎え、幹部連名による年頭の辞を発表した。和田浩一航空局長は、感染症の影響で厳しい状況にある航空業界に対し、「全力で航空関係者を支援」していくことを強調し、東京五輪・パラリンピック開催の成功へ向けて、業界が団結して取り組むよう呼びかけた。海谷厚志次長は、1.航空会社の経営基盤強化、2.ドローンのレベル4飛行実現のための環境整備、3.航空保安対策の充実、とした3つの制度改正を重視して、今後拡大していく航空需要のボトルネックとならないよう推進していく考えを示した。

■全力で航空関係者を支援
 航空局長:和田浩一

 和田浩一局長は全国で休まず働く航空業界関係者へ謝意を示すと、昨年は世界的に新型コロナウイルス感染症に振り回された年だったと振り返り、航空業界が「過去に例を見ない規模で大幅な需要の減少が続いている状況であり、航空・空港関連企業は極めて厳しい経営状況」と、危機的状況にあることを説明した。その中で航空局では、国民生活を支える航空輸送・安全運航を維持するため「全力で航空関係者の皆様を支援していく」ことを強調した。
 また今年は東京五輪・パラリンピック競技大会の開催が予定されていることに触れ、大会の成功には航空関係者が一致団結することが必要だとして、関係者へ協力を呼びかけた。

■鉄壁の守りと果敢な攻め、連携も重視
 航空ネットワーク部長:鶴田浩久

 航空ネットワーク部の鶴田浩久部長は、航空ネットワーク産業(航空会社、空港会社など)が発展し、利用者利便を増進するため、2021年からは3つの点に取り組む考えを示した。
 1つ目は“鉄壁の守り”で、新型コロナ対策として、航空会社に対する公租公課1200億円規模の軽減や、空港会社に対する事業費等1000億円以上の金融支援など、21年度予算案に盛り込んだことを説明。さらに他省庁の施策も活用した「感染拡大防止対策や、防災・減災の推進が急務」だとした。航空ネットワーク産業は通常、24万人の雇用と年間5兆円の売上を生むが、20年度には売上の3分の2が失われる痛手となるため、関係者の協力が必要であることを強調した。
 2つ目は“果敢な攻め”。首都圏空港の容量を世界最高レベルの100万回に拡大する取組みを継続し、20年先まで見据えた議論を行っていく。供給体制の維持・拡大の課題として、全国空港の着実な整備、グランドハンドリング支援、アクセス強化、デジタル化・自動化による生産性向上を挙げた。さらに東京五輪・パラリンピック対応を機に、ビジネスジェット利用環境改善の年だと位置付けて、空港機能強化を推進するとした。また社会課題のカーボンニュートラルへ貢献していく考えだ。
 3点目は前述二点の進め方である“win-winの連携”。自身の強みは相手にとっての連携メリットであり、コロナショック後の今年こそ強みを再認識する好機だとし、自身が実感した「挑戦と協働なくして達成なし」を掲げ、よりよい未来を創るよう呼びかけた。

■国同士、省庁連携で安全・安心確保へ
 大臣官房審議官:平嶋隆司

 大臣官房審議官の平嶋隆司審議官は、感染症の影響で国際航空の需要が減衰し「これまでにない異例な状況」だとした。各国で感染状況に差があり、検疫体制や検査・医療体制なども差があるため、各国間での連携を重視する姿勢を示して、人流・経済や生活・物流を支える必要があるとした。
 現在は政府部内でも、国土交通省のほか、内閣官房、外務省、厚生労働省、法務省など関連省庁で連携し、水際対策による安全・安心の確保に取り組んでいるところ。航空会社や空港会社などでも感染防止を図っているところ。特に航空機内は3分程度で空気が入れ替わる高い換気性能を持っているとして「特性もきちんと周知」して、安心した航空利用を促していくとした。
 また、一部の国で感染症の変異株が発生していることを指摘し、水際対策の役割が大きくなっているとした。状況の変化へ的確に対応するべく、厚労省、空港会社など関係者と連携し、検査体制の強化、待機スペースや時間、旅客動線など、円滑な水際対策のため工夫を図っていく考えを示した。
 また、国際的なテーマとなっている地球温暖化対策について、航空分野は「動力源に関しては、単位重量・単位体積当たりの大きなエネルギー密度が求められ、また、旅客などの安全を確保するための十分な信頼性と安全性や定時制を遵守できる安定性が求められる」ことを指摘した。航空機自体の性能向上や、新たな動力源の活用などに期待しつつ、効率のよい航法、代替燃料など、様々な手法を組み合わせ手対応するため、ICAOや外国関係者とも一層連携を図っていくとした。

■11月から航空路上下分離、現場支える人材確保へ
 交通管制部長:柏木隆久

 交通管制部の柏木隆久部長は航空交通管制分野として、毎日の航空交通の安全を最優先としつつ、利用者、運航者のニーズに対応して「短期・中期・長期の施策を同時に着実に実行する」考えを示した。
 柏木部長は、21年がコロナ禍から回復する正念場の一年だとして、東京五輪・パラリンピック大会を成功させる航空輸送力確保のため、さらにはコロナ禍からの回復期の社会の要請に応えるため、関係者との緊密な連携で、的確な航空交通オペレーションを実施していくとした。運航関係者の要望を丁寧にヒアリングしながら、飛行経路の短縮など運航の経済性を高める管制運用を実施し、遊覧飛行での柔軟な飛行経路設定など、新たな旅行コンテンツの創出を応援するなど「ユーザー目線での航空交通管制を実行していく」考えだ。
 それと並行して、本格的なインバウンド回復、2030年訪日6000万人の実現に向けて、航空交通拡大の基盤の整備を進めることも重要だとした。これまで福岡FIR内では、年間約190万機の航空機の運航を支えてきたが、さらなる管制処理能力の向上、管制サービス向上に向けた取り組みを着実に進めていくとした。
 すでに20年11月には、福岡航空交通管制部で航空路空域の上下分離、セクターの再編がスタートしたところで、21年には引き続き福岡航空交通管制部の低高度空域を神戸航空交通管制部へ移管。神戸航空交通管制部では上下分離など西日本の航空路空域再編と、那覇・先島・奄美にまたがる進入管制区の拡大を進めていく。
 また、各主要空港の機能強化について、発着回数の増加や、地域への騒音影響の抑制など、空港ごとの課題に応じて関連施設の整備や新たな管制運用手法の導入検討などを進めていくとした。また、各空港周辺のRNAV経路の設定や、より高度な準天頂衛星を利用した衛星航法の導入を進め、就航率の向上や短縮ルートの実現を図るとし、21年度内運用開始予定の奄美空港リモートレディオをモデルケースに、業務のリモート化を進める基盤整備を検討を進め、地方空港の管制サービス提供時間を柔軟化させる考え。
 統合管制情報処理システムについては今年、設計作業開始から12年がかりの構築・導入プロセスが最後の段階を迎えるとし、人材の安定的な確保を進めるため「システム専門官制度を強化していく」とのこと。さらに情報処理システムの安定性・信頼性にも十分配慮し、新たに設置されるデジタル庁とも連携していくとした。
 最後に長期的な視点として、産学官連携の「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)」に触れた。目標年限を2040年に延長したところだが、さらなる見直しと当面の取り組みの検証を継続し、2050年のカーボンニュートラル目標に向けた長期的な低炭素社会化の推進にも貢献する。また、今後の人材確保が極めて重要だとして、今から航空局全体の「やりがいのある職場づくり」を推進。前例にとらわれない仕事の改善、育児・介護などの事情を前提に私生活と仕事が両立できるキャリアコースづくりなど、各職種・各職場の実情を踏まえた働き方改革を推進していく考えだ。

■自然災害・人手不足対応へ、新技術の推進など
 大臣官房技術審議官:奥田薫

 大臣官房技術審議官の奥田薫技術審議官は、近年の気候変動影響で、自然災害の多頻度化・激甚化を指摘した。そこで空港では、具体的な教訓を踏まえた総合的なハード&ソフト対策を推進中だとし、特にソフト対策では空港ごとに機能保持・早期復旧に向けた業務継続計画を策定していることを説明した。さらに各空港の特性に合わせた訓練や点検を企画・実施し、PDCAの取り組みが不可欠であることを指摘した。
 新技術の導入の取り組みでは、ICTやAIなどを活用し、業務の省力化・効率化を図っていく考え。官民一体で進めている空港内作業の自動運転技術の導入などでは、感染症影響を抑える人同士の接触を抑制する効果もあるとした、現在は、必要なインフラの整備や新技術に即した運用ルールの策定など、実用化に向けた事業を推進しているところだとした。
 航空分野のインフラ国際展開については、コロナ禍で影響を受けたものの、現在では多くの空港プロジェクトで工事が進捗しているところ。空港運営事業では、モンゴル・新ウランバートル国際空港およびパラオ国際空港で、技術者が入国できず、当初の供用予定が大きくずれ込んだとしたが、21年の供用開始を目指す考えだ。
 20年は、アジアを中心とした四つの大型空港プロジェクトで約3300億円分を受注した。特にスリランカ・バンダラナイケ空港では、900万人のキャパシティを持つ新旅客ターミナルビルの整備のため、日本企業の施工・環境技術等が活用される予定だと説明した。21年は、ミャンマーの新空港などで整備・運営事業の一体的な獲得を推進し、新たな取組として、顔認証システム、衛星を使った航法システム等のデジタル技術の活用、エコエアポート、航空交通システムなどのカーボンニュートラルの貢献に向けた案件形成も推進していくとした。

■確実な保安検査へ、近く中間取りまとめ
 安全部長:川上光男

 安全部の川上光男部長は、感染症が拡大する中でも安全運航に努めた関係者に感謝の意を述べると、今後も影響が継続することを踏まえ、運航機会の減少、心理的に不安の中での現場業務、リモートでの間接業務などを踏まえ、安全運航を脅かしかねないリスクを正しく認識する必要があることを指摘。事故などを未然に防止するため、トラブルなどの情報収集、要因分析・再発防止策の水平展開、事後評価などのSMS(Safety Management System)を一層推進するよう協力を呼びかけた。
 感染症の関係では、20年10月公表・12月改定の「コロナ時代の航空・空港の経営基盤強化に向けた支援施策パッケージ」の一環で、安全規制の集中的見直しを図っているところ。ウィズコロナ・アフターコロナを見据えた規制を見直すべく、措置可能なものなどは速やかに実施し、中長期的課題については具体的な検討を深めていくと説明した。
 航空保安対策については、現場が抱える保安検査に対する旅客の認識不足、検査員の人手不足、契約手続きに関する複雑な業界構造、といった課題に対して、制度的な見直しを含め検討を進めてきたところ。具体的には、1.保安検査の位置づけ、2.関係者の連携強化、3.保安検査の量的・質的向上策という3つの課題について検討を進め、20年12月には検討の方向性について議論を行った。それを踏まえ「近く中間とりまとめを行い、こちらも航空法改正の準備を進めていく」考えを示した。
 また、ドローンや空飛ぶクルマなど次世代航空モビリティ対応について説明した。ドローンについては、2022年度を目途にレベル4飛行(有人地帯における補助者なし目視外飛行)実現へ、機体認証、操縦ライセンスの創設など検討を進めてきたが、官民協議会では20年12月に制度の方向性を議論し、まもなく検討小委員会では中間とりまとめを行う予定とした。これまでの検討結果を基に「航空法改正の準備を進め、安全を確保しつつドローンの利活用を後押しする」ため、早急に制度整備を図る姿勢を示した。
 そのほか、操縦士などの人材確保・育成、落下物対策、小型機安全対策など課題が山積しているとし、時代の変革に適応した航空安全行政サービスを提供していくとした。

■ポストコロナ時代へ確実な航空産業の成長へ
 航空局次長:海谷厚志

 海谷厚志次長は、課題のいずれも「コロナ」が含まれる異例の状況だとしながら「足下の対策を着実に進めていくことが現下の最重要課題」だと強調した。単に目の前の問題を片付けるだけではなく、ポストコロナの時代に向けた備えを怠らず、21年は、1.航空会社の経営基盤強化、2.ドローンのレベル4飛行実現のための環境整備、3.航空保安対策の充実、といった3つの柱からなる制度改正を検討していることを説明した。いずれも、今後必ずやってくるポストコロナの時代に「航空関連産業が成長のボトルネックとならないようにするため重要な内容」であり、前進を図っていくとした。
 また、普遍的な課題として、航空の安全の確保・コンプライアンスの徹底にも引き続き万全を期していくとし、国民の信頼をかちえていくことを重視する。そのため、官民ともに「航空関係者が安心感をもって業務を遂行できるような環境整備にも十分注意を払っていく」と述べた。

 

※写真=航空局幹部は、ポストコロナ時代に向けた航空施策を重視し、さらには長期的視野を持って取り組んでいくとした