縦割り行政打破し観光促進を
菅義偉新政権が誕生した。安倍政権の継承を謳いながら、首相に就任して以来、矢継ぎ早に政策を打ち出している。前政権よりも規制緩和をより重視し、後継者と目される河野太郎氏を行政改革担当大臣に任命し、省庁ごとの「縦割り行政の打破」を掲げたことは注目に値する。
観光政策は観光庁はできたとはいえ、所管の国土交通省航空局、外務省、法務省、厚生労働省、財務省、文部科学省、文化庁、スポーツ庁、経済産業省、環境省、農林水産省など様々な省庁が壁として立ちはだかる。
官房長官時代の菅氏の観光政策に関する言動、行動を振り返ると、縦割り行政との闘いとも言える。2016年の観光予算を倍増させた時には「安倍政権の観光にかける意思表示として倍にした。観光は世界で日本が一番」と述べ、京都迎賓館や二条城などの文化財を開放し、日本のユニークベニューの有効活用に取り組み、これを実現させた。
2016年に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」では、2020年に訪日外国人旅行者数4000万人、外国人旅行消費額8兆円、日本人国内旅行消費額21兆円の目標を掲げた。
菅氏は「安倍政権発足後からビザ緩和などの大胆な改革を行った結果、2016年の訪日外国人旅行者数は2400万人を突破し、着実な成果が出た」と評価しつつも、「ここからが正念場」として、さらなる規制緩和に着手する。一方で、観光庁の組織強化、職員増員も内閣官房が主導した。
2017年には「岩盤規制の岩を政府の力でこじ開け、さらに免税品を大幅に拡充した。赤坂の迎賓館の開館をはじめ日本の素晴らしい歴史・伝統・文化・演劇・スポーツにまで幅を広げて、多くの人に魅力ある日本を発信したい」と行動に出た。
訪日政策の推進にはビザ規制が最大のネックだった。これがどうしてこじ開けられたのか。菅氏は当時の安倍首相から「官房長官のもとで関係閣僚が集まってしっかり進めるようにと指示があり、観光立国政策がスタートした」と振り返る。
それまで、治安の問題からビザ緩和は最も難しい規制緩和の一つだったが、菅氏は「法務大臣、国家公安委員長、国土交通大臣、外務大臣、私を含めて5人で部屋で会って5分もかからない(で決めた)。ビザ緩和の翌月から面白いように増え始めた」。ビザ緩和の決断がインバウンド成長の流れを作った。観光政策の縦割り打破はここから始まった。
さらに、当時「なぜ日本には免税品売り場の看板が少ないのか」との疑問を持ったとし、ビザ緩和と同様に、実現のハードルが非常に高かった税制改正で、訪日外国人向けの消費税免税制度の改革を実現した。「観光による地方創生を何としても柱にしたい」との想いからで、その後、免罪対象は一挙に拡大した。
菅氏の政治の原点は「地方の元気なくして日本の元気なし」。これが「信念」かもしれない。したがって、観光政策への想いはGo Toトラベルに対する発言を見ても、前首相よりも強く、自分が主導したという想いがあるようだ。
2018年のトラベル懇話会の新春講演会に登壇した時も、原点となる政治姿勢を「地方分権」とした上で、「地方創生はまさに観光政策。地方創生を観光に懸ける」と述べている。
官房長官時代の「縦割りを排し、内閣全体で観光振興に全力で取り組む。国、地方、業界が一緒になって観光先進国を実現する」想いを、今度は総理大臣として、2030年訪日6000万人の目標に向かって踏み出す。
菅首相は「旅行業界を瀕死の状態」と憂う。海外旅行を主要業務とする海外旅行業界は、Go Toトラベル事業が本格化しても苦境は変わらない。観光政策は国際交流事業であり、日本も外国も交流なき世界で業界はともに苦境に喘いでいる。
Go Toトラベルで国内旅行は回復した後は、海外旅行・訪日旅行の復活であり、Go Toトラベル同様に、海外旅行・訪日旅行に対する助成を要望する。そして、そのための縦割り行政の打破を期待したい。(石原)