記事検索はこちらで→
2022.08.30

WING

防衛省、30年までのCO2排出50%オフ目標明示

 気候変動と安全保障は一体、戦略的に対応

 防衛省は8月29日、井野俊郎副大臣を座長とする「第5回防衛省気候変動タスクフォース」を開催し、気候変動への対処をまとめた「防衛省気候変動対処戦略」を策定した。この戦略では2030年度までに防衛装備品を除く防衛省・自衛隊が排出する温室効果ガスの総排出量を2013年度比50%削減を目指す。さらに2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、防衛省・自衛隊では社会構造が変化していく中でいかに対応していくか、将来を見据えつつ時間軸も意識して戦略的に取り組む目標を示した。
 防衛省・自衛隊では気候変動と安全保障について、もはや切り離して考えることはできない問題だと認識を示す。気候変動の問題は将来のエネルギーシフトの対応も含め、今後部隊などの運用や各種計画、施設、防衛装備品、さらに安全保障環境へ、一層の影響をもたらすことは必至であり、安全保障の問題だとする。そのため気候変動対処戦略では、気候変動によって日本の安全保障に与える影響を挙げた上で、長期的な視点で目標を掲げ、防衛省・自衛隊が戦略的に取り組むべき施策の基本的な方向性を示す。
 同戦略は気候変動によって今後、さらに災害が激甚化・頻発化するほか、気温の異常高温・熱波の顕著化などが予測されるとする。そこで日本の安全保障に与える影響については、基地などの施設や防衛装備品などが従来と同じ水準で運用できない可能性がある。さらに自衛隊の運用では、隊員の健康などに様々な影響を与えることになり、制約や障害、支障が顕在化することが予想される。考えられるのは、基地など施設の浸水・海岸侵食や、台風によるインフラの被害だ。訓練ができないなど計画への影響が懸念される。また異常高温や海水塩分濃度変化などによって、防衛装備品の性能・仕様に影響が生じるおそれがあるとする。
 また地政学的リスクも増大することになる。例えば北極海では海氷融解に伴って、沿岸国やそのほかの関心を有する国による航路利用、海底資源アクセス、海洋権益確保に向けた動きが予想される。そのため、北極海資源をめぐる大国間・関係国係争による不安定化や、中国による日本海を経由した北極海への進出、同航路の重要航路化などが懸念されるという。さらに災害に脆弱な太平洋島嶼国では、海面上昇による領土損失の危機となっている。それに伴って諸国の不安定化、近隣国との摩擦、中国の関与・影響力の拡大などといったリスクが考えられる。加えて自衛隊による太平洋諸国への能力構築支援や、HA/DRなどの役割増加も予想されることとなっている。
 カーボンニュートラルを実現する2050年の社会では、防衛装備品の化石燃料を現在と同レベルで使用し続けることは困難であり、今から防衛装備品のエネルギーシフトを検討しなければいけない。再生可能エネルギー発電や蓄電池に必要なレアメタルは、特定の国・地域に偏在しているものが多く、サプライチェーンの確保が課題となる。安定的に確保するためのシーレーンの問題や、中東依存リスクへの対処などが課題となる。

 気候変動は装備・施設効率化のチャンス
 防衛省、10項目の具体的施策を示す

 各種課題を踏まえ、防衛省・自衛隊では従来の化石燃料への依存度を低下させるための検討を進める。さらに脱炭素社会へ対応するために新エネルギー源の構成に向けた対応を検討していくこととした。日本の防衛にとって気候変動対応をマイナスと捉えるのではなく、対応していくことで将来へ向けて強靭さとレジリエンスが増すことになり、効率的な施設・装備へ整えていくチャンスと考えて、気候変動対策と防衛力の維持・強化を同時に図っていく。自衛隊の運用、訓練、施設維持管理などの改善を通じて現有の防衛力の効果を高めながら、今後の気候変動で予測されるあらゆる環境下でも的確に任務・役割を果たせるようにする。
 そのため、推進すべき施策として挙げるのが、次の具体的施策となる。

「1.基地等の施設及びインフラの強靭化」
▼基地等の施設及びインフラの災害等への強靭化(①大雨・短時間強雨、②台風、③海面上昇)
▼基地等の施設のエネルギー自立化(グリーンベース化)
▼基地等の施設への電力の安定供給の確保

「2. 防衛装備品の防衛力向上とレジリエンス強化」
▼将来の使用環境に対応した防衛装備品の能力とレジリエンスの強化
▼将来の脱炭素社会(エネルギーシフト)を見据えた新たなエネルギー源構成への対応
▼脱炭素時代に対応したゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術に関する取組
▼戦闘車両等のハイブリッドシステムの研究の推進

「3.後方分野における持続性・レジリエンスの強化」
▼従来の化石燃料への依存度低下のための検討
▼防衛省・自衛隊のロジスティクスの強化

「4.災害等対処能力の強化」
▼災害派遣に関する調査
▼地球温暖化に伴う新しい感染症(又はパンデミック)への対応

「5.戦略的な安全保障協力の強化」
▼多角的・多層的な安全保障協力の戦略的な推進
▼気候変動に伴う将来の安全保障環境に及ぼす影響及び当該影響への対応に係る共通認識・理解の醸成
▼国際緊急援助活動、HA/DRへの取組
▼将来のエネルギーシフトに伴う地政学的リスク(レアメタル等の重要鉱物資源や新たなエネルギー源)に向けた対応

「6.自衛隊員の生活・勤務環境の改善、衛生機能の強化」
▼熱波、異常高温による自衛隊員の健康リスク増加への対応
▼水や食物由来の疾病や動物媒介由来の疾病に対する対応

「7.基地等の施設の効率化・温室効果ガス排出の削減」
▼基地等の施設及びインフラの省エネルギー化
▼防衛省・自衛隊の施設等の効率化・温室効果ガス排出の削減(緩和策)

「8.訓練、教育、人材育成」
▼気候変動に伴う将来の安全保障環境への部隊運用・訓練の適応
▼教育、人材育成の充実化

「9.技術基盤の強化」
▼研究とイノベーションの活用
▼官民連携による効果的な推進
▼防衛産業基盤の強化

「10.地域コミュニティーとの連携」
▼地域社会との調和・貢献
▼再生可能エネルギー施設建設のための防衛省・自衛隊の土地の使用の許可の検討

※図1=気候変動が安全保障に与える影響(提供:防衛省)