質の高いアジアの観光
国際観光旅客税の導入と相まって、日本人出国者の税への受益として、若者の海外旅行促進策が焦点となっている。諸外国と比べて、若者の海外への出国率を高めるにはどうしたらいいのか。直接的な18歳未満のパスポート無償化、回数制の数次旅券の導入など省庁、自治体が絡む難しい案件はこの際置いといて、海外旅行の楽しさ、メリットなどを多様な視点から若者にアピールすることが求められているのかもしれない。
日本の海外旅行の課題として、地方の出国率、パスポート取得率の低さが挙げられる。これを合わせると、「地方の若者」の海外旅行を促進することはダブルで難しい課題となる。
先だって、シンガポール政府観光局が協賛するヨウジヤマモト青山店で開催されるレスリー・キー氏の写真展内覧会に出席した。ヨウジヤマモト(山本耀司)氏と言えば、山本寛斎氏、三宅一生氏、高田賢三氏などと並ぶファッション界の“生けるレジェンド”である。日本国内よりも世界での評価が高いのだろう。
写真家のレスリー・キー氏もヨウジヤマモト氏を大変尊敬しており、そのことを内覧会の挨拶で力説していた。驚いたのは、内覧会に参加した内外の若い人たちで、ヨウジヤマモト氏はもちろん、レスリー・キー氏をリスペクトし、この人達には、日本もアジアも世界がボーダレスになっていることを実感した。
海外を行き来すること自体が自然で、個人で東京、シンガポール、上海、香港、パリ、ニューヨークなどを仕事でも、プライベートでも行っているのだろう。「若者の海外旅行促進」というフレーズ自体がピンと来ないようだった。
来日したシンガポール政観のチャン・チー・ペイ副長官は、日本の若年層、とくに教育旅行誘致の取り組みを強化するとともに、昨年8月に全世界でスタートした「Passion Made Possible」キャンペーンに合わせて、若年層に強い異業種との連携などを通じて、シンガポールの魅力を訴求すると強調する。
今回の写真展協賛もその一環だが、シンガポール観光大使として写真展内覧会に参加した俳優の斎藤工さんも、シンガポールとの懸け橋となるボーダレスな若者の代表ということになろうか。
青山、表参道を活動拠点とする若者が日本の若者の代表なのかは分からないが、おそらく、昔も今も、地方の若者には、流行の発信は東京・青山・表参道であり、アジア、世界の最先端都市と通底しているのだろう。
ならば、今回の写真展に集うような内外の若い人たちに、若者の海外旅行について語らせたらどうか。若者の海外旅行と言うと、若い時の成功体験から大上段に構える人やベンチャー系の人が多く、もっと自然に語る人が必要ではないか。
シンガポール政観のプロモーションは、日本のインバウンド政策と比べても参考になることが多い。チャン副長官は、シンガポールが小さく、観光資源が限られているから、観光政策が重要であることを強調した。資源を「持たざる国」の日本が、敗戦を経て経済成長したように、観光資源をはじめ「持たざる国」のシンガポールは観光をはじめ多様な分野で成長している。持てるものは「人材」なのだろう。日本は観光資源の「持てる国」。もっとアジアのインバウンド施策を研究すべきだ。
観光庁と日本政府観光局(JNTO)は、「Enjoy my Japanグローバルキャンペーン」を展開する。富士山、桜、芸者、神社仏閣の日本の典型的なイメージから、自然や食、現代アートなど7つのテーマを設定して、新キャンペーンを英国、ドイツ、フランス、米国、カナダ、オーストラリアの6カ国を皮切りに世界で展開する。
欧米豪からの旅行者が渡航先に日本を選び、訪日旅行を拡大することは、「質の高い観光立国」をめざす上で必要なことだ。その一方で、アジアからの旅行者はさらに質が高くなる。これから芸術、スポーツなどあらゆる分野で、アジアは拮抗する。アジアの成長、若者の成長は早い。(石原)