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2017.12.18

JTBの覚悟

 旅行業界は2016年の「海外旅行復活の年」を受けて、2017年を「旅行業界の真価を発揮する年」と位置づけた。とくに、2016年からの海外旅行者数の拡大を継続するとともに、減少傾向が続く旅行会社の海外旅行取扱額をプラスに転じることが、真の「海外旅行復活」につながるとした。
 ほぼ1年を経過して、海外旅行者数は10月までで前年比5%増の1488万人で、このまま行けば2012年以来の1800万人に到達する。2000万人の目標に向けて、2年連続でプラスとなったのは、海外旅行が回復傾向にあるとみていいだろう。
 但し、海外旅行は外的要因の影響を受けやすい。10月が0.1%増と微増にとどまったのも、北朝鮮問題による影響がグアム、韓国などの渡航に現れたことも影響している。テロ、北朝鮮、さらには予測できない感染症、自然災害などもある。経済環境もさることながら、そうした逆境にも強くなる業界にならなければならない。
 海外旅行需要では、今年大きかったのはヨーロッパの回復だ。大手旅行会社の決算状況を見ても、ヨーロッパ需要の回復が各社の業績を押し上げた。ロング方面のヨーロッパは収益性が圧倒的に高く、旅行業界にとっては重要なデスティネーションであることを再認識させられた。
 今回のヨーロッパ需要の回復で、これまでと違う傾向が見られた。日本人の旅行の特殊性として、航空事故、テロ事件、自然災害、感染症などが発生すると、旅行重要の回復までに約1年を要する。ヨーロッパの旅行需要は、パリのテロ事件などの影響を受けて大きく落ち込んだが、昨年秋口から回復し、その後も大きなテロ事件が発生しているが、持続的に回復は進んでいるという。
 テロ発生=旅行手控えではなく、テロ事件の発生しても、日本人も冷静に見極めている傾向があるという。例えば、ヨーロッパではないが、エジプトのシナイ半島で11月下旬に200人以上が死亡するという大きなテロ事件が発生し、日本では「エジプトでテロ」と大きく報道されたにも関わらず、その後のエジプト旅行に関してほとんど影響はないという。
 日本では、ひとたび大きな事件が発生すると、連日マスコミが煽り立てるように報道し、事態が終息しても、その報道はしないということが多い。旅行需要もマスコミ報道の影響が大きかったが、最近のマスコミ不信もあるかもしれないが、事態を冷静に見極める目を持つことは良いことだ。
 しかし、ヨーロッパが回復して、旅行会社の収益性が上がったとしても、旅行業界の構造的課題の解決とはならない。JTBの中間決算を見ても、収益性は上がり、売上総利益は伸びたものの、売上高は微増にとどまった。
 JTB高橋社長が年頭で指摘したように、国内旅行、訪日旅行、そして海外旅行の需要がOTAにシフトしている流れは止まっていない。その対策として、JTBは来年から新ブランド「ダイナミックJTB」を海外旅行、国内旅行に投入する。
 JTBは今年大きく飛躍したFIT対応商品「エアホ」の強化版とも言うべき「ダイナミックJTB」は、ダイナミックパッケージやOTAに対抗する「切り札」的存在になる予感がする。
 とくに、ダイナミックJTBは、「JTBならでは」の数々の衣を纏う。独自の取消料免除、滞在先や空港でのトラブルでの日本語24時間緊急対応、遅延見舞金などを「JTB安心パック」としてルックJTBだけでなく、ダイナミックJTBにも適用する。
 これは、ダイナミックパッケージ、OTAだけでなく、既存の旅行会社のパッケージツアーにとっても脅威となろう。
 今のところ、JTB統合の最大の象徴がダイナミックJTBの投入という印象を受けるが、来年に向けて様々な仕掛けを用意しているとみられる。2018年はこうした「JTBの覚悟」に対して、OTA、旅行会社がどのように競争していくのか。旅行需要の拡大とともに全面競争の幕開けとなりそうだ。(石原)