売上総利益を高める
JTBが発表した2017年度中間決算は、これまでとは違う特色があった。それは、決算内容も記者会見も前面に「売上総利益」を押し出してきたことだ。決算では、売上高、営業利益、経常利益、純利益の数値が目安になるが、売上総利益、いわゆる「粗利」を決算内容の中心に据えることは珍しい。
旅行業界では、昨年を「海外旅行復活の年」とし、結果的に日本人の海外旅行人数は2012年以来4年ぶりにプラスに転じた。しかし、旅行者数は増加したものの、旅行会社の取扱額は減少傾向のままだった。それを受けて今年は、2018年のアウトバウンド2000万人、インバウンド3000万人の双方向交流5000万人に向けて、海外旅行復活と同時に旅行会社の海外旅行取扱いを増やす年と位置付けた。
JTBの4-9月中間期の売上高は0.3増で、他社の決算を見ても、海外旅行の取扱額、売上高は大きなプラスとはならないようだ。しかも、JTBの場合、グローバル事業が大幅な増収だったものの、海外旅行、国内旅行、訪日旅行は全て減収で、売上高ベースでは「リアルエージェント」が厳しい状況に置かれていることは、依然として変わりないことが分かる。
一方で、売上総利益で見ると、海外旅行は10%増、訪日旅行は18%増と二桁以上の増加を示した。海外旅行は収益性の高い欧州が回復していることで、原価率が下がったことが大きく、訪日旅行は団体ツアーが減り、ジャパニカンなどのウェブ取扱いが増えたことが主な要因となっている。
JTBの決算説明を聞きながら、もう旅行会社が売上を競う時代ではなくなったのかという思いがよぎった。OTAが先行する国内旅行で旅行会社の売上高が減少しているように、海外旅行は大手であっても収益性を優先する時代に来たのだろうか。これは、海外旅行業界が求めていたことでもあるが、OTAの台頭により、否が応にも、そうした状況に進まらざるを得ないのかもしれない。
てるみくらぶが倒産し、粉飾決算が明るみに出たが、2015年、2016年の決算は売上総利益がマイナスという原価割れの状態で、販管費も払えない状況なのに、経営状況を偽って、銀行からの融資と一般消費者から前金を集めて凌いでいた。
売上総利益から販管費を引いて、本業の儲けを示す営業利益が出るわけで、売上総利益が上がらなくては、社員の給与支払いにも影響する。収益性を高めることが重要なのだ。
旅行会社でも中小の経営者は、売上総利益を何よりも重要視する。言い換えれば、売上を維持すると同時に原価を抑えて収益性を高める。それによって、安定した経営が長く持続させることができる。
しかし、常に成長を求められる上場企業、ベンチャー企業はそうはいかない。旅行業で成長できる場合はいいが、それも先細りになると、旅行の既存事業を維持しながら、新規事業で成長を持続しなければならない。
訪日旅行は人数は伸びているが、旅行業界では既に転換期に入っている。JTBが中間期で訪日旅行の売上高が減少したことは象徴的だ。高橋JTB社長は今年の年頭インタビューで、「訪日FIT化への対応策は、“タビマエ”のWeb強化に尽きる。ジャパニカンのサイト力、商品力を含む総合力を高めていく」と方針を示したが、その通りの結果が出た。
JTBは訪日旅行について、団体旅行からFIT対応のウェブ販売に舵を切った。自社のジャパニカン、提携するアゴダ、シートリップからの取扱拡大により収益率は向上した。ジャパニカンの予約状況を見ると、宿泊とともに訪日国内ツアーも伸びている。今後、競争の厳しいOTAの競争にどこまで伍していけるかだろう。
しかし、各社とも同じ経営環境に晒されている。例えば、海外旅行は収益性の高いデスティネーションに各社が集中的に資本を投下すれと、価格競争、体力勝負の世界になる。ハワイはその兆候が現れてきた。
旅行会社が成長するには何をするべきか。ビジネスモデルの転換とよく言われるが、大手ならグローバル事業の展開、新規事業への参入などが祝えれるが、それも競争は厳しい。中小はどうするか。本業で儲けるという原点に帰るしかないのではないか。(石原)