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2023.04.12

WING

第174回「日本が危ない」電撃訪問で得た賞賛と見えた課題

実現したウクライナ訪問
日印首脳会談は中継地

 

 ウクライナを電撃訪問した首相、岸田文雄。先進7カ国(G7)首脳では最後となったものの、先の大戦後、日本の首相として戦闘が続く国・地域に足を踏み入れたのは初めてで、ウクライナ支援を明確にしたことは内外から高く評価された。同時に旧態依然とした国会の事前了解の在り方など今後に課題も残った。
 訪問の計画は一カ月以上前から官邸、外務省などごく一部で進められた。官邸内でも知らされていない高官もいた。そうしたなかで、ある議論が行われた。“中継地”として使うインドとの首脳会談で、訪問を告げるのかということだ。後からわかったことだが、インド側は岸田一行がウクライナを訪問することは事前に知っていた。
 岸田の訪問日程は首脳会談や講演をはじめ20日に集中し、21日はスカスカであった。しかも、岸田が使う政府専用機とは別にチャーター機が用意されパラム空軍基地に待機していた。
 ある政府当局者はインドに事前に通報したほうが、今後のインドとの関係を良好に保つためにもいいのではないかと主張した。インドはロシアのウクライナ侵略について、名指しして非難することや、対ロシア制裁に加わることはしないなど、ロシアとのパイプは維持してきた。インドを通じて、ロシア側に岸田のウクライナ訪問が伝われば、ロシアもインドの立場を考慮し、断続的に続けていたキーウ攻撃を見送るのではないかとの計算もあった。
 だが、政府高官は一喝した。「日本政府内でもごくわずかしか知らない極秘訪問なのに、他国に通告するなんてありえない。ロシアへの通告についても他国に依存するのではなく日本自らが行うべきだ」と高官は主張した。
 岸田はこの案を受け入れ、在モスクワの駐日ロシア大使館を通じてウクライナ訪問の意向をロシア側に伝えた。20日の首脳会談でも、岸田がインド首相ナレンドラ・モディにこの後の日程を伝えることはしなかった。
 日本政府関係者によると、インド政府当局者は「アベだったら違う対応しただろうね」と語ったという。アベとは昨年7月に暗殺された安倍晋三元首相である。同9月に安倍の国葬が行われた時、モディは参列し、遺影に頭を下げるなど、安倍とは親交が深かった。安倍だったら、モディとの信頼関係から事前に教えてくれたはずだとインド政府当局者は語る。

 

チャーター機と陸路を駆使
置き去りにされた報道陣

 

 安倍だったら違った対応をしただろうというのはほかにもある。メディア対策である。今回、岸田は同行記者団を一人もウクライナに連れていくことはなかった。2月に同じくウクライナを秘密裏に訪問した米大統領ジョー・バイデンは幹事社的な役割として、米紙ウォールストリート・ジャーナルとAP通信の記者とカメラマンを同行させた。

 

ウクライナへの電撃訪問で称賛を得た一方で、見直すべき課題も浮き彫りに(提供:首相官邸)

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