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2023.08.31

WING

羽田空港と共に育つHICity、研究開発拠点で注目

 商業もオフィスも“ごちゃ混ぜ”、イノベーションを誘発

 羽田空港に隣接する空港跡地第1ゾーンには、前衛的な施設が存在する。そこにはコンサートホールや足湯などが備えられ、訪れる老若男女を楽しませる。一方で、様々な企業が入居するオフィスビルや、先端技術を研究する施設としての機能も備える。さらには、いたるところでロボットが闊歩し、人間に変わって警備や清掃など行う――。先端と文化の融合をコンセプトに掲げる「羽田イノベーションシティ」(HICity)は、2020年に一部の施設による街びらきが行われ、羽田空港周辺の新たなスポットとして多くの人を引き付けている。それが今年6月の全施設の竣工に伴い、来る11月16日には施設全体のグランドオープンを迎えることになり、さらに新たな施設へとして進化していくことになる。それでは今後HICityはどのように変化していくのか。施設を運営する羽田みらい開発で、SPC統括責任者を務める加藤篤史氏に話を聞いた。
 HICityは扇形の敷地となっていて、その中にゾーンAからLの区画があり、様々な企業や店舗などが入居する。ここはオフィスや店舗など用途に応じて明確に分けられていない。加藤氏によれば、まさに「ごちゃ混ぜの街並み」が形成されている。この複合施設を整備し、運営しているのが羽田みらい開発。同社は鹿島建設を代表企業とした9社で形成されるコンソーシアムだ。その9社は、鹿島建設、東日本旅客鉄道、大和ハウス工業、東京モノレール、京浜急行電鉄、野村不動産パートナーズ、日本空港ビルデング、富士フイルム、空港施設となる。
 この“街”では、まるで決まりがないかのように多種多様な店舗や施設が並んでいる。これこそが開発当初からのねらいどおり、商業施設、オフィス、研究開発施設が横並びで多くの人が行き交い、新たな発見が生まれ、イノベーションを創出し続ける施設へと成長していくのだという。その中で数少ない決まりともいうべきコンセプトが“先端と文化”になる。このコンセプトを基軸にどれほど多様な企業・店舗が集まっているのか。代表的なものを紹介していく。
 “文化”の象徴的な存在なのが、ゾーンHでZeppホールネットワークが運営するコンサートホールだ。これは施設の中でも最も大きく、スタンディングで約3000人を収容することが可能だ。連日ライブなどのイベントを開催しており、若者を中心に3000人規模の人々が訪れている。また、隣接するゾーンEで人気施設となっているのが屋上にある足湯スカイデッキだ。足湯につかりながら空港を一望できるため、観光名所として活気があふれる。
 先端と文化が入り混じる施設としてユニークなのが、ゾーンDでロボットのオープンイノベーションを目指す「Future Lab HANEDA」だ。川崎重工ロボットディビジョンが運営する実証実験施設で、一般の人がロボットに触れ合うことができる。ロボットによる全自動レストランとなっており、ロボットが食事の盛り付けから配膳・下膳まで行う。一般の来場者も食事料金を支払うことで研究開発に参加することができる。
 さらに街中の各所に約400個のビーコンを設置しており、自動運転やロボットの研究開発拠点としての機能を備える。実際に街中では先行的に完全自動運転バスが循環しており、各場所で様々な先端技術の研究開発が行われている。そのほかにも、京急が運営するビジネスホテルと、カンファレンスホールの「コングレスクエア」を併設し、羽田空港近傍という恵まれた立地でのビジネスユースに対応する。雑多な施設が集積する。その一方で、ぐるなびの直営店舗では日本食文化を体験することができる。
 それだけでも、街中の「ごちゃ混ぜ」ぶりは十分伝わったことだろう。しかし11月16日には、新たにゾーンA・B・Cがオープンすることでさらなる交流を生むことになり、晴れてHICityはグランドオープンを迎える。新区画のうちゾーンAは特に建物が高く、下層部分では藤田医科大学の先端医療研究センターが開業することになる。ここでは研究施設と先端医療機器を用いた健康診断施設やクリニックを展開する。その上層階にはホテルメトロポリタン羽田(10月17日開業)が展開し、街中の宿泊機能が強化される。ゾーンBは研究開発などを行うオフィスラボであり、現在様々な企業へ呼びかけており、研究開発施設をさらに拡大することになる。ゾーンCでは日本空港ビルの研究開発拠点「terminal.0 HANEDA」が開業する。これは2024年1月30日のオープン予定で、異業種間の連携によって羽田空港が抱える課題解決に取り組むことになる。
 HICityの建設時を振り返れば、再開発によって発展し続けたわけではなく、何もなかった土地に街をつくるという「都内でも珍しいプロジェクト」だったと説明。直結する天空橋駅周辺は広く認知されていたわけではなく、当初そこへ施設を造っても「誰も来ないのではないか」という懸念があったという。しかし街開き以降は、その不安を払しょくするように多くの人で賑わい、広く認知されるようになった。発展を見続けてきた加藤氏は、11月のグランドオープンまで漕ぎつけたことが「感慨深い」と目を細める。
 一方で冷静に見れば、グランドオープンは建物の完成に伴うものであり、本当のスタートは施設への入居など参加企業や店舗などで全スペースを埋めてからだという。そのため、すでに多くの問い合わせがあるものの、さらなる誘致に力を入れていく考えだ。街がフル稼働することで「先端と文化が各場所で重なり合い、訪れる様々な人も入り混じるようになれば、新たな気付きが生まれる」という。そしてその先に見据えるのが従来では思いもよらないイノベーション。「必ずイノベーションを起こせる街になると確信している」として、街を育てていくのだという。

※写真1=鹿島建設開発事業本部事業部長であり、羽田みらい開発のSPC統括責任者を務める加藤篤史氏

※この記事の概要
・交錯する先端と文化が新たな領域へ
 高い親和性が生むイノベーション
先端医療と殿町の研究でコラボ期待
 空港運用の前にロボットのテスト
一層伸ばしたい海外との交流
 空港隣接の街として活性化
かつて3000人規模が居住した土地
 街として、産業として復活の地