【潮流】概算要求とアウトバウンド予算
観光庁の2024年度予算の概算要求は、コロナ禍を経て、前年の倍増となる670億円を要求した。観光庁が進める持続可能な観光地域づくり、地方中心のインバウンド誘客の戦略的取り組み、国内交流拡大を3本柱に、国内旅行、イン・アウトの双方向交流の拡大、観光産業従事者の人手不足問題の対応、観光施設の再生、観光の高付加価値化を推進する。
670億円の内訳は、一般財源が2.2倍増の241億円、国際観光旅客税充当分が2.1倍増の420億円、東日本大震災復興枠が21%増の9億円。観光政策推進の財源の中心が、訪日インバウンド旅行者、海外アウトバウンド旅行者から1000円徴収する国際観光旅客税であることがより明確になった。420億円の要求額ということは、インバウンド・アウトバウンドを合わせた国際旅行者数を4200万人に想定している。この根拠について観光庁は、IATA(国際航空運送協会)やICAO(国際民間航空機関)などが公表している需要動向では、コロナ前の7割水準の回復率を見込んでいることなどを踏まえて要求したとしている。
今年7月の時点で、訪日旅行者は78%、日本人海外旅行者は54%の回復を示した。既に、中国以外の訪日旅行者はコロナ前の水準を上回っている。中国からの旅行者は団体旅行の解禁はあるものの、原発処理水の海洋放出を巡る中国側の反発など先行きは不透明だが、既に7月で30%回復している。現在の訪日インバウンドの勢いからすると、コロナ前水準の3188万人は2024年に達成する確率は高いと見る。
一方で、日本人海外旅行者の回復は遅れている。現状の円安や物価高などが影響しているが、パッケージツアーの低迷はさておき、人数ベースでは5割まで回復してきた。今年1000万人は微妙だが、来年はコロナ前水準の5割となる1000万人超えは可能だろう。
この辺りが4200万人を試算した背景にあると思っている。観光立国推進基本計画では、訪日外国人旅行者数、日本人海外旅行者数ともに2025年に19年水準超えをめざしている。現状をみると、訪日旅行者数の3188万人は1年前倒し、日本人海外旅行者数の2000万人は2025年の達成は今後の動向次第と見る。
さて、観光庁概算要求では一般財源から「双方向交流拡大に向けた各国政府観光局等との連携促進事業」として7000万円が計上された。前年度予算額2000万円の3.5倍となる。観光庁が推進する「アウトバウンド政策パッケージ」で連携する海外観光局と進める海外旅行振興に充当する。
観光庁はこの事業について、「アウトバウンドはインバウンドに比べ回復が遅れており、双方向交流拡大に向け、アウトバウンド政策パッケージにおける当面の重点デスティネーション各国等の早期回復に向け、実効性のある取組が必要」と指摘。また、若年層の国際感覚の向上と中長期的な双方向交流の活性化につながる海外教育旅行について、官民連携で高いプログラムの開発・普及により裾野拡大・定着を図るとしている。
双方交流促進では海外観光局と共同プロモーション等を実施、海外教育旅行では海外観光局と海外教育旅行プログラムの開発・実証を行うことを計画している。
海外旅行促進を双方向交流の名のもとに予算を計上、要求することは評価する。とくに一般財源からアウトバウンド予算を要求することには世界的に例を見ないので、旅行業界としてもこれに応えなければならない。
ただし、国際観光旅客税充当分の420億円のうち、仮に1200億円が日本人海外旅行者からの徴収分とするなら、その「裨益」をアウトバウンド振興に投じてもらいたい。例えば、今年の「今こそ海外!」キャンペーンで効果のあったパスポート取得費用の減額や補助に適用できないものか。省庁間の問題を無視して敢えて言う。アウトバウンドの振興は、日本人のパスポート取得率の向上からだ。(石原)