【潮流】海外旅行の新たな道を模索
日本政府観光局(JNTO)によると、今年上半期(1-6月)の出国日本人数は361万4200人。コロナ前の2019年比で38%と4割近い回復を示した。1月の30%から4月までは3割台で推移し、5月8日に新型コロナウイルス感染症の分類が5類に移行してから4割台に上がった。訪日外国人旅行者数の6割台の回復と比べると、回復度合いは遅いが、徐々に回復には向かっている。
日本旅行業協会(JATA)の高橋広行会長は、海外旅行需要について、「夏休みに向けて上昇しており、これから秋口に向けてさらに伸びて5割、6割の水準にはなる」と予想。夏休みを契機に下半期は本格的な回復に向かい、来年早期にコロナ前水準の2000万人レベルに近づける方向性を示した。
下半期は企業や法人の団体旅行需要が回復することが見込まれてており、ビジネス渡航と団体旅行が回復することで、個人の海外旅行を押し上げていくことが期待されている。とくに、主要旅行会社の業務渡航需要は1-4月累計で、コロナ前の66%まで回復していたが、5月、6月とさらに上向いている。
旅行会社の中には、全体の海外旅行取扱額はコロナ前の45%程度の回復だが、そのうちの業務渡航の取扱額は80%台に回復しているところもある。主要旅行会社の取扱状況を見ても、取扱額ベースでコロナ前を上回っている業務渡航専門の旅行会社が複数出ている。円安や物価の高騰で取扱人数ベースではコロナ前に戻っていない会社もあるようだが、レジャー需要と比べると、やはりビジネス需要の回復は早い。
観光市場の回復は遅れているが、それでも旅行各社の海外旅行取扱額は回復に向かっている。企業・法人のMICE、教育旅行が戻りつつあり、一方でFITの個人旅行やダイナミック・パッケージは、旅行会社の海外旅行取扱額の大きな部分を占めている。
最大の課題はパッケージツアーの低迷ではないか。主要旅行会社の5月の海外募集型企画旅行の取扱状況をみると、2019年比で取扱額が13%、取扱人数が10%と依然として非常に厳しい数字が並ぶ。
大手旅行会社は、夏休みの海外旅行需要拡大に向けてキャンペーンを展開しているが、航空券やダイナミックパッケージは売れても、従来のパッケージツアーの未だ厳しい状況にあることは数字上にも表れている。加えて、航空座席、ホテル客室の仕入れ、人手不足などの問題が加わり、パッケージツアーの企画・造成には様々な問題が積み重なる。
中小の募集型企画旅行を企画・造成している会社は、コロナ禍を耐えて、海外旅行商品の企画・造成を既に再開している。コロナ禍の厳しい状況を乗り越えて、秋冬に向かって本格的に旅行商品を販売している。
大手旅行会社の主力商品だった海外パッケージツアーが、コロナ前の状況に戻ることができるか。コロナ禍で多くの旅行会社が廃業し、提携販売店もこれから立て直しが図られる中で、パッケージツアーの将来が問われている。
こうした中で、新たな動きも始まっている。阪急交通社とエアトリは相互提携を始めた。阪急交通社のパッケージツアーをエアトリのウェブサイト、エアトリの航空券・ホテルを阪急交通社のウェブサイトを通じて販売でき、お互いの強味と弱味を補完する。旅行会社とOTAが本格的に相互提携する時代に入った。
これまで直販で成長してきたエイチ・アイ・エス(HIS)は提携販売の構築に乗り出した。学生生協からスタートし、今後は提携販売の拡大を視野に入れる。HISは6月の海外旅行取扱高が2019年比で58%まで回復した。これをコロナ前の水準に戻すには提携販売店の協力が必要であり、とくにパッケージツアーの販売拡大をめざすものと見られる。
大手旅行会社もコロナ禍を経て、海外旅行事業の回復に向けて新たな道を模索している。海外旅行の復活は、旅行事業者全ての課題であることを再認識する。(石原)