ひとつの「ヨーロッパ」を訴求【ヨーロッパ観光委員会(ETC)】
「多様性」「好奇心」「サステナビリティ」をキーワードに
エドゥアルド・サンタンダー
ヨーロッパ観光委員会(ETC) エグゼクティブディレクター
新型コロナウイルスによる影響から脱しつつある海外旅行需要。そのなかで、日本マーケットへの期待は高まっている。ヨーロッパ各国の観光局で構成するヨーロッパ観光委員会(ETC)は、2021年に日本支部の活動を再開。ひとつの「ヨーロッパ」として、日本マーケットへの訴求を図っている。昨年は「ツーリズムEXPOジャパン」に「ヨーロッパパビリオン」を出展、ミッションも派遣し、ETC幹部が来日した。今年も同イベントに出展、ミッションも予定する。日本マーケットへの期待や今後の展開など、ETCエグゼクティブディレクターとして初来日するエドゥアルド・サンタンダー氏に話を伺った。
市場回復へ向け日本市場に投資
今年も「ツーリズムEXPO」に出展
日本マーケットへの期待
歴史的に、日本市場はヨーロッパ諸国にとって、重要なインバウンド市場のひとつとしての役割を果たしてきた。これは、20世紀後半における日本の経済成長と繁栄のおかげである。
最近に目を転じると、日本はコロナ以前、渡航者数でEU圏外旅行市場の中で第5位を占めていた。2019年には、日本から欧州への旅行者はほぼ500万人に達し、日本の全出国者の19.2%という注目すべき市場シェアを構成した。しかし、新型コロナウイルスとウクライナ紛争により、日本の消費者は海外旅行の再開に一定の消極的な姿勢を示している。
とはいえ、ヨーロッパの各観光局は、市場回復を早めるために投資を続けており、日本人旅行者の再訪を切望している。10月に予定している欧州旅行委員会(ETC)の訪日ミッションに参加できることを特に喜ばしく思うのはこのためだ。
私たちはすでに昨年、「ツーリズムEXPOジャパン」に参加、「ヨーロッパパビリオン」を出展したが、今年再び同イベントに出展し、日本の旅行業界の皆様と再会し、日本の旅行者を安心させることができることを大変うれしく思っている。
2021年より日本支部を再開
日本市場での活動は50年近くに
これまでの日本市場におけるETCの取組
ETCは50年近くにわたり、日本で存在感を示してきた。歴史的に重要な出来事をいくつか紹介したい。
ETC が日本市場に参入したのは、1974年に日本支部を設立してから。当初は、旅行会社や航空会社など、旅行業界との直接的な協力関係が中心だった。当時は「デスティネーション・ヨーロッパ」と題したマニュアルを発行し、日本全国の旅行業界関係者に配布した。
1976 年、その活動は旅行業界にとどまらず、テレビやその他のメディアを通じたプロモーション活動を通じて消費者の関心を高めることに力を注いだ。もうひとつの重要な出来事は、1977 年にETCが日本国内で初の会議を開催し、メディアと旅行会社向けの専用セッションを設けたことである。このイベントは大成功を収め、業界だけでなく日本の幅広い層の注目を集め、大きな反響を呼んだ。
約10年間の活動休止の期間を経て、2021年に日本支部を再開。この日本支部は、ETCの正会員であるヨーロッパ各国の観光局で構成されている。日本支部の主な役割は、旅行目的地としてのヨーロッパを宣伝しながら、マーケットリサーチやトレンド分析を活かし、旅行業界及び旅行者にヨーロッパの魅力を伝えることを目指している。
歴史や文化の多様性を訴求
パビリオンに8か国11団体参加
今後の日本市場におけるETCの展開について
ETCは、ヨーロッパ大陸でのテーマ別の体験に重点を置きながら、日本で人気の旅行先としてのヨーロッパを際立たせていく。ETCの焦点は、自然やアウトドア、歴史や伝統、文化や都市体験に興味を持つ自由な個人旅行者。私たちの目的は、一度の旅行で何か国も巡れるなど、ヨーロッパならではの魅力を紹介することだ。
例えば、日本人旅行者は異文化体験や史跡探訪に強い関心を持っている。ヨーロッパの豊かな歴史、建築、文化、食の多様性は、こうした体験を求める日本人旅行者の好奇心を掻き立てることができる。
既に述べたように、今年予定されている具体的な活動の中で、ヨーロッパパビリオンを通じてツーリズムEXPOジャパンに参加する。このパビリオンには、ベルギー、キプロス、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、ポルトガルから11のETC会員およびパートナーの代表が参加する(この他、バルト3国やイタリア、スペイン、ポーランド、マルタ、クロアチア、アイスランドなどがブース出展の予定)。
またミッションでは、日本旅行業協会(JATA)や旅行業界の主要なパートナーとも交流する予定。さらに、ツーリズムEXPOジャパンの閣僚懇談会にも参加する。これら会合は、ETCが日本の旅行業界と再びつながり、日本の旅行者を再び迎え入れるための欧州の心構えをアピールする絶好の場となると考えている。
コロナ前の水準にほぼ回復
費用増、持続可能な取組など課題に
ヨーロッパ観光市場の現状と課題
最新のETC 調査によると、2023年の欧州観光は好調な状態にある。インフレ、ウクライナ紛争、人員不足などの課題にも関わらず、2022年の国際観光客到着数は2019年の水準を18%下回るまでに回復した。2023 年第2 四半期は、コロナ以前の国際観光客到着数をわずか5%下回っただけだった。
当面の課題としては、インフレと旅行費用の増加が消費者の財布を圧迫していることが我々の調査で明らかになっている。この夏、多くの消費者がコスト面を考慮して旅行を決定した。しかし、消費者は旅行の価値を重要視しているため、このことが全体的な回復を妨げることはないだろう。
ヨーロッパ観光が再び最高水準に達しようとしている今、我々は旅行者の需要と回帰を効果的に管理する準備をしなければならない。
観光戦略は、過密状態に対処するデスティネーションを支援すると同時に、海外の旅行者が少ない地域にも観光の利益を広げるために、旅行の分散させる戦略が重要となる。ヨーロッパの観光地や観光産業は、観光で社会的、文化的、経済的に活性化できるよう、持続可能な観光への移行に取り組んでいる。
もちろん、これには気候変動の緩和とグリーン転換の緊急性も含まれる。ETCは、観光と気候変動との間の否定できない関係を十分に認識し、持続可能な観光を強く提唱している。
観光産業には、自然環境、野生生物、文化遺産など、旅行体験に命を吹き込む資源を保護する責任と機会がある。
この目的達成のため、私たちは今年、独自の気候行動計画を立ち上げた。この計画により、私たちはCO2排出量を削減し、加盟組織の気候変動対策を奨励することで、欧州の観光産業を牽引している。
統一メッセージで価値を強調
より強い存在感を示す
ETCとして活動し、ヨーロッパ全体をプロモーションする意義
ETCは、ヨーロッパ各国の観光局を代表する統括組織。1948年に設立され、今年で75周年を迎える。ヨーロッパ全土から集まった35のメンバーが、ベストプラクティスの共有、マーケット情報の共有、プロモーションなどの協力を通じて、観光の価値を高めている。
ETCの活動の主な焦点は、海外市場におけるヨーロッパの観光地の共同プロモーションだ。加盟デスティネーションや観光業界との共同キャンペーンや、欧州連合(EU)からの資金援助を通じて、パートナーシップを築いている。
欧州全体をプロモーションすることで、欧州大陸の多様性、アクセスのしやすさ、共通の文化遺産を活用し、魅力的な旅行を提案している。個々の国が独自のアイデンティティとマーケティング努力を維持する一方で、欧州の共同プロモーションは、世界中の人々に対する欧州地域の全体的な魅力を高めることになる。
ヨーロッパ全体として、まとまりのあるブランド・アイデンティティを構築することで、潜在的な旅行者に永続的な印象を与えることができる。統一されたメッセージは、文化の豊かさ、歴史的意義、多様な景観の探索のしやすさといった価値を強調する。
さらに、資源と専門知識を結集することで、欧州各国はより多くの旅行者にリーチし、世界の観光市場においてより強い存在感を示すことができる。
我々はまた、ヨーロッパが他の世界的な観光地との競争に直面していることも認識している。ヨーロッパをひとつの地域として宣伝することで、文化や歴史、自然や食など、多様性あふれる魅力を競争力として打ち出すことができる。
日本人旅行者がひとたびヨーロッパの地を踏めば、、自分の興味や情熱が掻き立てられ、素晴らしい感動体験ができることは間違いない。