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2023.10.03

【潮流】地方へ訪日旅行消費が拡大

 観光庁によると2023年4-6月期の訪日外国人の旅行消費額は、1次速報ベースで1兆2052億円と1兆円を超えた。コロナ前の2019年同期比では95%まで回復した。このまま推移すれば、7-9月期はコロナ前水準を超えるだろう。
 一方で、日本政府観光局(JNTO)によると、4-6月期の訪日外国人旅行者数は592万人で、2019年同期比で69%と約7割まで回復した。
 7月時点で中国からの訪日旅行者がコロナ前の3割程度の回復にも関わらず、全体で7割まで既に回復しているということは、中国を除けば、訪日インバウンドはコロナ前を上回っている。とくに、訪日旅行消費額の勢いは人数以上の成長ぶりを物語るようだ。
 訪日旅行消費額を国別にみると、さらに2023年と2019年の違いがはっきりする。2019年4-6月の旅行消費額1兆2673億円のうち、中国が4645億円と37%を占めた。それに続くのは台湾1414億円(11%)、韓国1229億円(10%)、この3カ国・地域で58%、実に6割を占めていた。米国は944億円(7%)だった。
 2023年4-6月期の旅行消費額は、台湾1739億円(14%)、中国1515億円(13%)、韓国1429億円(12%)だった。この3カ国・地域では39%と2019年に比べてシェアは20%近くダウンした。それでも、台湾と韓国の旅行消費額はコロナ前を上回っており、各国・地域の経済状況が好調なことと円安に触発されて、購買意欲は旺盛なことが分かる。
 また、特筆すべきは、米国が中国、韓国、香港を上回り、台湾に次ぐ1722億円(14%)の高い水準に達していることだ。2019年の米国の旅行消費額は944億円(7%)だった。米国からの旅行者数がコロナ前と比べて増加しているからだが、米国からの訪日旅行消費額は8割以上も増加している。
 一人当たりの旅行消費額をみると、30万円を超えているのは、英国、中国、オーストラリア、ドイツ、イタリアで、米国も29万円、シンガポール28万円と欧米豪に加えてシンガポール、中国の旅行者の旅行消費水準は高い。
 中国は政治的問題をはらみつつも、購買意欲は旺盛で、費目別では、コロナ前同様に買い物は中国が最も高い。中国からの訪日旅行消費額はコロナ前の3割台に落ちているものの、一人当たりの旅行消費額はコロナ前の5割増に達している。中国からの団体旅行者が解禁されていない中で、個人旅行者は所得水準が高いこともあるが、かつての「爆買い」ではなく、高付加価値旅行は欧米豪だけではなく、中国、さらにはアジア、世界に広がっている。反面、それだけ日本が円安で、経済が落ちている裏返しでもあるのだが。
 政府は「観光立国推進基本計画」で決定した2025年までの目標値では、訪日外国人旅行消費額単価20万円が、2023年4-6月時点で20万4500円と暫定的に達成している。旅行消費額の「早期に5兆円」の目標も1−3月期1兆146億円、4-6月期1兆2052億円、上半期計2兆2198億円、7月以降の回復ぶりを考えると、2年前倒しで今年5兆円を超える可能性が高い。
 ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)の田川博己会長は創立10周年記念式典で、「現在は2019年を上回るスピードで訪日外客数が回復しており、改めてインバウンド観光とショッピングツーリズムの重要性を再認識している。また、サステナブルツーリズムや高付加価値化など、観光は量から質への新たなフェーズに入っている」と旅行消費額に重点を置く。
 また、訪日インバウンドを牽引してきた菅義偉前首相は「消費額はコロナ前に迫る勢いまでも戻ってきている」と指摘。課題として東アジアの訪日旅行リピーターや中近東など初めて旅行者への官民連携の観光掘り起こしを求めた。そして、日本各地での多言語による外国人旅行者への対応の重要性を強調した。
 国内各地を旅すると、多くの外国人が地方を旅していることを実感する。とくに、大都市周辺だけでなく、新幹線の延伸もあって、地方にも多くの外国人旅行者が国内旅行者とともに観光している。宿泊もホテルや外国人向け民泊だけでなく、日本旅館にも滞在している。さらなる分散化によって、訪日旅行消費が国内地域経済を支えていく。(石原)