【潮流】入域料・入域制限の導入
第2回目のオーバーツーリズムの関係省庁対策会議が9月29日に開催され、観光庁から施策の柱立て、各省庁から具体的に施策案が示された。2回目の会議では、北海道美瑛町、神奈川県鎌倉市、京都市のオーバーツーリズム対策を具体的に実施している3地域の関係者が取り組みの事例を説明し、それらを受けて、オーバーツーリズム対策は観光地の実情に応じた地域関係者が行う取り組みを推進することが確認された。
オーバーツーリズムの未然防止・抑制のための具体的な柱は3本。「マナー違反行為の防止」「混雑の抑制・緩和」「地域と協働した観光振興」とする。そしてマナー違反行為の防止は(1)旅行者に対するマナー啓発、混雑の抑制・緩和は(2)受入環境の整備・増強(3)需要の適切な管理(4)需要の分散・平準化、地域住民と協働した観光振興は(5)住民の協働や理解醸成の推進の5項目でオーバーツーリズム対策に取り組むこととした。
9月6日の第1回会議では、オーバーツーリズムへのこれまでの対策として、「マナー啓発」「入域料や入域制限の導入」「混雑の可視化による分散」の3つの柱が示されていた。
国内旅行者、中国を除く訪日外国人旅行者がコロナ前の水準を上回る中、持続可能な観光を推進する上で、地域住民と旅行者の双方の満足度を向上するためには、マナー啓発は必須となる。
需要の分散・平準化は、観光地が大都市圏や人気観光地に集中を避けること、さらに最も重要な観光による地域活性化、地方創生のためには、これも必須項目となる。
中国からの団体旅行が解禁された中で、必然的に訪日旅行者数はさらに増加する。観光立国推進基本計画から1年前倒しで、来年には2019年水準の3188万人を上回る。国内旅行者も円安・現地物価高で海外旅行を手控える中で堅調に推移する。
そうした状況を見越すと、「入域料や入域制限の導入」に踏み込むことがオーバーツーリズム対策のカギになるのではないか。
海外をみると、スペイン・バルセロナはサグラダ・ファミリアでは事前予約制導入、グエル公園で人数制限設定、ハワイではダイヤモンドヘッドなど主たる観光地では事前予約・入場料徴収制度を導入している。
2回目の会議では、(2)受入環境の整備・増強に「入域料の導入」、(3)需要の適切な管理に「入域制限の導入」が盛り込まれている。つまり、環境整備の原資としての入域料、混雑規制のための入域制限と目的が異なる。確かに受入整備費用に入域料、混雑防止に入域制限は分かるが、「入域料や入域制限の導入」が柱立てしないことは後退した感が否めない。
ハワイを例にとると、オンラインによる事前予約により入場料を支払い、入場を制限する目的は観光客の安全と環境保全にある。オーバーツーリズム対策は地域の環境保全、旅行者の安全、なおかつ受入環境充実、混雑緩和につながる。
国内では入場料徴収や入場制限に対して「やむを得ず」のネガティブな印象が強いが、むしろ地域や観光客のために積極的に導入する考えを持つべきだ。例えば、熊本県小国町では観光DXによる事前予約システムを導入し、オーバーツーリズム対策を実現したことにより、世界のサステナブル観光地100選に選出されている。
わが国は観光立国推進基本計画で、持続可能な観光の推進、高付加価値旅行の促進を明記している。旅行者の人数を追うのではなく、旅行消費額の目標を重要視している。訪日外国人旅行消費額の早期5兆円の目標も今年達成する可能性が高い。
オーバーツーリズムの関係省庁対策会議は10月の第3回目の会議を経て、具体的な対策をまとめる。オーバーツーリズム対策、ひいては持続可能な観光の推進は、地域社会・住民と旅行者の満足度を向上させることにある。その意味では、「地域住民と協働した観光振興」の柱立ては非常に重要で、観光事業者と地域住民によるオーバーツーリズム対策の具体化を期待する。(石原)