グアム政府観光局(GVB) 秋葉祐輔エクゼクティブ・ディレクターインタビュー
FY24は団体旅行・教育旅行を積極的に誘致
グアムの優れた特徴を改めてアピール
日本人の出入国に関する規制が撤廃されてから初めて迎えた2023年の夏。5月下旬にグアムを襲った台風の影響による出遅れが懸念されていたが、特に8月はグアムにとって素晴らしい月となった。秋以降も団体旅行の予約が増えている状況で、グアムの新しい会計年度がスタート。グアム政府観光局(GVB)日本オフィスは今後、どのような活動で旅行者増を目指すのか。秋葉祐輔エクゼクティブ・ディレクターに話をうかがった。
コロナ禍での継続的な露出
2023年8月にグアムを訪れた日本人旅行者は、前年同月比756.3%増の2万3534人(速報値)だった。ようやく日本人旅行者がグアムに戻ってきたと実感できる夏となった。
この好調の要因について秋葉氏は、「コロナ禍であってもグアムの露出を止めなかったこと」を第一に挙げる。GVBはコロナ禍の真っ只中で現体制に移行したが、広告キャンペーンや旅行会社との共同広告、日本からのグアム直行便就航 55周年を記念して実施した「GO GO ! GUAM」キャンペーン、SNSでの発信など、さまざまなメディアを通じてグアムの露出を続けてきた。この継続的な努力が、ゴールデンウイーク明けから出入国規制が撤廃されて海外旅行できるようになったときに、消費者の選択肢の中にグアムがあったことを意味している。
詳細は分析が進められている最中だが、GVBスタッフの肌感覚としては、8月の日本人旅行者はファミリー層が圧倒的に多かったという。5月下旬に大型台風がグアムを直撃し、現地は大きな被害を受けた。GVBには「家族でグアムに行きたいのだが、もう大丈夫なのか?」という問い合わせもあったそうだが、日本が夏休みに入った頃には現地はほぼ完全に日常を取り戻していた。円安や物価高騰というマイナス要因がありながら、8月にこれだけの人がグアムを訪れたという事実は、グアムがあらゆる面で旅行しやすいデスティネーションと認知されている証と言えるだろう。
コロナ禍以降、グアムを支えてきたのは主にFITだ。逆に言えば、パッケージツアーを利用する層がまだ戻ってきていない。GVBとしてはパッケージツアー利用者の比率を増やし、閑散期には団体旅行や教育旅行でグアムを訪れてもらうことで、コロナ前の状況に戻すという第一目標の実現に一歩近づくと見ている。
団体・教育旅行の拡充に注力
グアムの会計年度(FY)は10月からスタートする。今年度(FY24)の予算規模は、ほぼ例年どおりの額を確保した。韓国市場の伸びはあるものの、GVB本局や現地企業は、旅行者1人あたりの消費額が大きく宿泊日数も長いという特徴のある日本市場を重視する姿勢に変わりはなく、日本市場への投資をやめない構えだ。
そのFY24の旅行業界向けの大方針としては、東京(成田)以外の3空港でのプロモーション強化とMICEと教育旅行の獲得がある。成田は満席状態の日が多く、GVBでは「動きの早い東京はリカバリーが見えてきた」(秋葉氏)と判断。名古屋、大阪、福岡の地方3空港は、現状ではロードファクターが高い状態とは言えないため、GVBはFY24でこの3地域を重点的にサポートしていく。地方に行けば行くほど、「まだマスクをしなければいけないのか?」「海外旅行に行ったら隣人に何か言われるのではないか?」と心配する傾向があるようだが、GVBはこの消費者のマインドを切り崩し、3空港の底上げに本腰を入れる。
特に重視するのが、現在就航している航空会社のロードファクターを上げることだ。これを最優先事項として掲げ、3地域でのプロモーション活動に取り組む。ロードファクターを上げることで需要があることを示せれば、旅行会社にチャーター便を利用した商品の造成を働きかけたり、他の航空会社には新規就航を働きかけたりしていく。
団体旅行については、すでに予約が増えている。来年からはこの動きが本格化することを見越し、グアムを選んでもらえるように、昨年度も行った団体旅行向けインセンティブを実施する計画だ。
また修学旅行をはじめとする教育旅行の需要も増えることが期待される。そのためGVBは、教員にグアムを知ってもらうための活動を視野に入れている。教員に納得してもらうためには、これまでの歴史教育だけでなく、SDGs関連のプログラムが必要とされる。今後は専門家に協力を仰ぎ、教員向けにグアムのSDGs関連の教科書的な冊子を作ることも検討している。この教科書作成が実現すれば、「旅行会社の教育旅行営業担当者に配布し、修学旅行のプレゼンで活用してほしい」(秋葉氏)という。
全面に出すのは「グアムのもつ優位性」
「当たり前」の情報発信の徹底も
GVBでは、一般向け・及び業界向けのプロモーションの双方において、グアムの基本情報の発信を重視する。9月に静岡で開催したセミナーでは、「日本から約 3時間半」、「日本から最も近い安心安全なアメリカンリゾート」、「365日泳げる常夏の島」、「空港から中心部まで車で15分」などという、ごく基本的な情報を説明した。開催前には、あまりにも基本的な情報を旅行会社のスタッフに説明する必要があるのか、という疑問もあったが、終わってみると非常に好意的な反応が得られたという。
静岡のセミナー会場には旅行会社の若手スタッフもいたそうで、秋葉氏は「コロナ禍での入社組は、まだ仕事で海外に行けていない人も多いのではないか。静岡のセミナーでは『グアムの基本くらい知っているだろう』という先入観を捨てて、基本情報の発信を徹底する重要性をあらためて実感した」と話す。旅行業界向けに基礎情報を発信し続けることも、コロナ禍からのリカバリー策の1つと言えるかもしれない。
また、さらにSITについてもこれまで以上に強く打ち出していく。特にウェディングやビーチ、ゴルフといった、グアムの強みについては、コロナ前のように当たり前のプロモーションを当たり前に展開していく考えだ。
旅行者の利便性向上と
現地企業への経済効果を狙う新たな試み
この夏に は、GVBが実施した「GO GO!GUAM SUMMERキャンペーン」で利用できるクーポンとして、キャンペーン実施期間中に指定の旅行会社でグアム旅行商品を購入した人の中から、5000人限定でグアム現地でのみ利用できる20ドル分のクーポンをプレゼントする「GO GO !GUAM PAY」を実施した。これは全国旅行支援の「region PAY」を海外で利用できるようにした初めてのケースとして注目を集めた。
リリースのタイミングの遅れや、実際の利用率などさまざまな課題が浮き彫りになったものの、GVB本局は、旅行者だけが得をする従来のサポートと異なり、現地企業に利益をもたらすこの新しい取り組みを高く評価。今後はGVB日本オフィスがGO GO !GUAM PAYに参加した旅行会社からヒアリングを行って課題を整理し、「来年以降に向けて、さらなる発展版を開発していく(」秋葉氏)という。
姉妹都市との双方向交流の拡大と今までになかった客層への期待
グアムは、姉妹都市関係にある日本の市町村との双方向交流の復活に向けても動き出している。恋人岬という共通項から姉妹都市となっている静岡県土肥町や新潟県柏崎市には、すでに市役所・町役場の担当者を訪問。GVBでは姉妹都市との関係を重視し、学生の交流などについても実現に向けて少しずつ話し合いを進めている。
そしてコロナ禍において、グアムには 5つ星ホテルができた。ファミリー層や若年層というグアム旅行のコア層に加え、ラグジュアリーホテルでのリゾートステイを楽しみたい富裕層や、ホテル目当てでグアムを訪れる層といった、今までにあまりいなかった客層がグアムを訪れることも期待されている。
秋葉氏は、「FY23終盤の8月にグアム復活のきっかけが見えた。FY24はできるだけコロナ前の状況に戻せるように、積極的に動いていきたい。旅行業界の皆様もアイデアなどあればお気軽にGVBまでお寄せいただきたい。そして共にグアム旅行を盛り上げていきたい」と語っている。
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