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2024.02.08

WING

シリーズ『羅針盤』第1回  航空宇宙産業の「風」に乗る経営

※著者=清水健(アクセンチュア株式会社ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループマネジング・ディレクター)

 グローバルの航空機製造業は長きにわたる新型コロナウイルス感染拡大の影響を脱しつつあり、2023年の市場規模はコロナ前の水準にほぼ戻り、年間成長率も11%に達する見通しである。それを裏付けるように、国際航空運送協会(IATA)の発表によれば2023年の航空会社の売上高は約8,000億ドル、利益水準も約100億ドルに達する。
 こうした復調を受け、民間航空機の2台巨頭であるエアバス社もボーイング社も、2040年までに40,000機を超える新造機を見込んでいる。現在の年間製造機数は両社を合わせて1,200機超の水準だが、前述の見通しは年間製造機数を2000機と、今から5割近い増産を狙っている。
 一方、こうした復調は手放しでは喜べない。サプライチェーンの混乱や熟練労働者不足に端を発したランプアップの停滞はいまだに解決していない。アクセンチュアの調査によれば、航空機製造業に携わる経営陣の半数が足元の増産ができないと考えている 。サプライチェーンの問題や熟練労働者の不足の問題を何らかの手段を用いて解決しない限り、前述の見通しは単なる「絵に描いた餅」に終わってしまう。
 そうした中で、脚光を浴びているのが生成AI(人工知能)である。前述の調査によれば、航空機製造業に携わる経営陣の98%が、生成AIが業界を抜本的に変革するカギとなると考えており、経営陣の81%が向こう3年以内に何らかのイノベーションが起こると考えている。実際、グローバルでは既に6割近い経営者が既にユースケースの探索と実装を進めており、  こうした新たなテクノロジーも用いて、前述の目標を絵に描いた餅に終わらせないための取り組みを進めている。
 翻って日本はどうであろうか。日本航空宇宙工業会(SJAC)によると、日本の航空機製造業は約2兆円の市場規模を有している。グローバル市場の成長に合わせてこれから先も順調に市場は伸びていくので安泰である、と言いきれればよいのだが、日本の市場はグローバルのそれからやや異なっている。グローバル市場の成長の恩恵を十二分に取り込むためには、下記3点を克服することが求められる。


※写真=アクセンチュアの清水健氏(提供:アクセンチュア)