ウイングトラベル
旅行業界の若手・女性活躍を一層推進へ
JATA経営フォーラムで活発な意見交換
観光先進国の実現に向けて、官民が一丸となってさまざまな取り組みが進められている日本の観光業界。今後、より一層の成長を図っていくためには人材の定着と活躍が必要不可欠となる。そうした中で先日、日本旅行業協会(JATA)が開催したJATA経営フォーラムでは、旅行業界の将来を見据えた人材戦略についてパネルディスカッションが行われた。特に今回は女性社員や若手社員の活躍と共創をテーマに、旅行業界の取り巻く現状認識と今後求められていくことについて活発な意見交換が行われた。
今回のパネルディスカッションには、横浜商科大学商学部観光マネジメント学科の宍戸学教授、日経BP社の麓幸子執行役員、ベルトラの萬年良子取締役最高執行責任者、JATAの矢嶋敏朗広報室長が参加した。モデレーターはJTBグループで観光人材育成などに関わり、現在は山梨大学生命環境学部地域社会システム学科観光政策科学特別コースの教授を務める田中敦氏が務めた。
旅行業界、人気高いものの内定辞退率高まる
女性社員のキャリアアップに関する意識希薄
冒頭、田中教授が最近の旅行業界の人材を取り巻く環境について説明を行った。旅行業界は、依然として人気業界の1つとはなっているものの、新卒者の内定辞退率が高まっている。また、女性社員を取り巻く状況については、キャリアプランにおいて管理職となることを希望しない声が多いという現状がある点を紹介した。
その上で「人材争奪戦といわれているが、ただ単純に奪い合えばよいのか。また、若手や女性社員に対してどのようにして活躍してもらえる環境作りを進めていくのかをしっかり考えていく必要がある」と問題提起した。
働き方改革と女性活躍推進は業界成長に不可欠
社員の満足度と仕事の満足度の見える化重要
これを受けて日経BP社の麓執行役員は、女性の社会進出に関する専門家として「最近、女性の活躍や働き方改革に関する議論が活発に行われているが、これを旅行業界も本気でやってもらうことが業界のパラダイムシフトにつながる」と指摘した。これを実現する上で「人材の強化に対して量的拡大も必要だが、質的向上の方がより重要だ。会社の成長のためにはダイバーシティマネジメントを欠かすことができない」と強調した。その上で、ダイバーシティ経営実現のためには「トップのコミットメント、意識改革・行動変容の促進、働きがいの創出などが重要視されてくる」と指摘した。
また、ベルトラの萬年取締役は、企業の人材育成について社員の満足度と顧客の推奨意向を意識した取り組みを進めている自社の取り組みを紹介。仕事のやりがいを肌で体感できるようにするために、顧客の生の声に直接触れることができるシステムを導入したことや、経営陣と社員との距離を詰めて行くことや社員それぞれの多様性を受け入れていく環境作りを進めていく必要がある点について説明した。
旅行業界の魅力、教育現場でしっかり言語化を
業務内容を包み隠さず明確な説明が重要
横浜商大の宍戸教授は日頃、学生と触れている経験から若者世代が抱いている旅行業界のイメージについて意見を述べた。日本国内には観光を取り扱う学部、学科などが数多く存在するものの「観光を取り扱う教育について、おもしろみがないと感じさせられる部分が少なくないのではないか」と指摘。旅行業界に有能な人材を送り込むためには、「旅行業界が持つ専門性や仕事の魅力について、しっかりと言語化して教育していく必要があるのではないか」と指摘した。
JATAの矢嶋広報室長は、学生の就職セミナーやインターンシップを企画・実施している立場から、旅行業界への就職に関する意識について「最近はインバウンドの話題が多いこともあり、旅行業界に進路を求める学生も旅行会社よりも自治体を始めとした観光戦略系の業務に接したいと考える人が多い」と指摘する。一方で旅行会社については「営業を始め、旅行会社が行っている仕事に対するイメージをつかみかねている部分があるのではないか」とする。そうした中でセミナーやインターンシップなどで来る学生の印象やアンケートの回答結果を踏まえて「観光に関心を持つ学生は旅行業のことを体系的に知ることができれば、来てくれる。そのためには、強みと弱み、業務内容を包み隠さずに説明することで、旅行業に進むことへの意欲を高めていくことが重要」と指摘した。
継続的な勤務実現へ、業界内の制度改革も重要
女性や若手社員の活躍や人材の獲得についてパネリストからの意見や提言を受けて、会場からは「女性や若手社員の活躍の場を提供したいが、旅行会社の取引契約形態の問題で、在宅勤務などがやりづらい状況がある」といった実情を指摘する声があがった。これに対してパネリストからは「より継続的に働けるような場を提供していくために、業界を挙げて取り組んでいく必要性もある」といった意見が寄せられていた。
※写真=JATA経営フォーラムの分科会では旅行業の若手、女性社員の活躍に向けて活発な議論が行われた