「第3の創業期」来たる
2018年度がスタートし、4月1日、2日には旅行業界各社で入社式が開催された。入社式は世相を反映する。旅行業界ではFIT化とOTAの台頭、AI、ロボット化が進む時代背景を反映して、大手各社はリアルエージェントならではの価値創造を入社式で強調した。
とくに、4月1日から再統合し、新生「JTB」として新たなスタートを切ったJTBの高橋広行社長は、「One JTB」を強調し、再統合を「第3の創業期」と位置付け、コミッションモデルからフィーモデルへの転換、「JTBならでは」の価値を提供し、ソリューション・ビジネスを構築することを宣言した。
そのための「人財」は不可欠として、JTBグループ27社・782名の新入社員を採用した。この人数は、旅行業界では圧倒的な数である。統合の初年度としての意気込みもあろうが、新しいJTBを印象づける入社式だった。
一方で、HISは澤田秀雄会長兼社長が3月から半年間、海外へ長期視察の旅に出て、入社式にメッセージを寄せた。メッセージは「大きな夢・目標を持つ」「明るく元気に仕事をする」「継続は力なり」という心構えを説いたもので、昨年のように「OTAとの競争」や「システム開発」の話はなかった。
とくに、昨年度の新入社員は681名(うち外国人53名)だったが、今年度は352名と半分近くに抑えた。新入社員数を抑制した狙いがOTA化への布石なのか、それとも販管費の抑制にあるのかは分からない。澤田社長が海外視察からの帰国後に、どのような施策を打ち出すのか注目したい。
分社化を進めるKNT-CTホールディングスは、今年度から初めて合同入社式を開催した。丸山隆司社長は「グループ37社に37のエンジンが付いており、同じ方向に向いてこそ、荒波を砕いて突き進むことができる」と結束力を強調した。
新入社員333名に対して「信用とチームワーク」を求め、「我々の財産は7000人の社員とITシステム」と言い切り、「近畿日本ツーリスト、クラブツーリズムという二枚看板のもと、みんなで力をあわせて、売上高を上げていこう」と呼びかけた。売上高とは「価値あるサービスの提供」と明言した。
日本旅行の堀坂明宏社長は、新入社員に対して「変化を起こし・市場に応え・変革に努める」の3点を求めた。そして「お客様の求める価値を実現する」として、旅行会社が介在するからこそ受けられるサービスを提供することを強調した。
阪急交通社の松田誠司社長は、創業100周年向けて、新入社員に「汗をかき、変化を求め、聞く力を持つ」ことを求めた。そして「真に社会から必要とされる企業をめざす」と訴えた。
旅行業界で最大の課題は、マーケットから必要とされることに尽きる。OTAの台頭、FIT化で、高橋JTB社長が語るパッケージツアーの誕生による「第2の創業」は終わりを告げ、「第3の創業」へと踏み出す。
そのために、旅行各社は法人団体旅行、教育団体旅行、観光DMO・地方創生事業、インバウンド、スポーツ・ツーリズム、MICEなど事業分野の多角化を図っていく。
そうした多角化から、既存分野も大きく変革していくのかもしれない。JATA海外旅行政策の提言にもあったように、IT企業を中心とする国内・海外社員旅行の拡大で、社員旅行が大きく変貌している。社員旅行で初めて海外へ行く若者も増加している。旅行業界から新たな企画が生まれ、団体旅行が生まれ変わる可能性がある。
HISグループは、旅行、テーマパークに次ぐ第3の柱としてホテル事業を拡大、さらにはロボット事業、植物工場、エネルギー事業など「多角化」の道を走るが、今後、旅行事業をどうするのか、事業を絞り込むのか、新たな展開を図るのか。澤田氏の帰国後に注目が集まる。
「第3の創業期」はJTBだけではない。HISも大きく変わる予感がする。KNT-CTグループ、日本旅行、阪急交通社も将来を見据えて変革を急ぐ。旅行業界が「第3の創業期」を迎えている。(石原)