ウイングトラベル
★働きがいのある、魅力ある産業の実現へ

サービス連合、櫻田あすか会長に聞く
コロナ禍を経て観光分野の業況が回復傾向に向かう一方で、人手不足の問題は依然として顕在化している状況だ。今後業界が成長・発展をしていく上でもサービス・ツーリズム産業で働く人々の労働環境の向上が求められてくることになる。今年の春闘が本格的に始動するのにあたり、労働組合としてどのような点を強く訴えていくのか。サービス・ツーリズム産業労働組合連合会(サービス連合)の櫻田あすか会長に話を聞いた。
人手不足は依然として大きな課題
他産業との人財獲得競争を強く意識
■ツーリズム産業を取り巻く現状についてどのように見ているのか。
「海外旅行についてはコロナ禍前の水準に戻り切れていないものの、2020年からの数年間の頃から考えれば、状況も好転しているのではないかと考えている。また、コロナ禍前にはできていなかった価格転嫁という部分についても進んできているのではないかと見ている」
「しかし、中小企業白書でも示されているように、宿泊・飲食サービス業というのは建設業と並び約8割の企業で人手不足となっているというのが現状で、これに応じて長時間労働という部分が発生しているのが実態だ。旅行や宿泊の需要が回復してくる中で時間外労働も増えており、働く人たちが疲弊してしまっているという部分もある」
「昨年の春闘では多くの加盟組合で賃上げは実現できたものの、それが業界全体に行き渡っているのかと言えばそうでもないという部分もある。さらに物価上昇ということもあるので、サービス・ツーリズム産業に携わるものが、ゆとりを持った生活ができるようになったとは言い難いのではないかと思っている」
※写真=本紙とのインタビューに応じたサービス連合の櫻田あすか会長
■他産業との人財確保競争という部分への意識が高まっている。
「コロナ禍の中で多くの人々がサービス・ツーリズム産業を離れてしまった。業況は改善しているものの、なかなか人が戻ってこないというのが実情だ。そうした中で、さらなる待遇改善を図り、働きたいと思える環境づくりを作っていくことが重要であると考えており、他産業との比較ということを意識して訴えていくことにしていくようにしている」
今年の春闘は6.0%以上の賃上げ実現目指す
カスハラ対応、労使間で万全な体制づくりを
■待遇改善を目指していく中でサービスに見合った価格転嫁というのも重要なポイントとなっている。
「サービス・ツーリズム産業は人の力が重要になってくる。人にも投資をしてもらい、産業としての魅力度が増すという好循環を描いていく上では、付加価値を提供するサービスに対する適正なお金をいただき、これを賃金に反映させていくということが重要であり、価格転嫁という部分はさらに強く訴えていきたいと考えている」
■価格転嫁という視点で具体的な目標を設定することについては考えられるのか。
「サービス連合としては、『35歳年収550万円』という大きな目標を立てて活動をしているところだ。ここに価格転嫁というポイントを乗せるということは必要なのではないかとは思っている。ただ、今掲げている目標に到達できていない組合も多く存在しているのも実情だ。まずは、35歳年収550万円というものをクリアして、その次のステップとして価格転嫁に対する具体的な金額というのを目標感として持っておくというのは大事なのではないかと思っている」
■2025年春闘では定昇・ベア含め6.0%以上の賃上げを求める。
「経営側も人への投資が必要であるという認識を持っているというのは、昨年の春闘での交渉においても伝わってきた部分でもある。しかし、人手不足の状況が依然として続き、この問題が解決されていないという現状を考えると、産業競争力をさらに高めていく必要がある。その時に昨年と同様の5.0%という水準のままであると他産業との差が縮まらないということになる。そこを加味して6.0%以上という目標を設定することとした」
「また今年の春闘への具体的な活動においては、早め早めで臨んでいきたいという考えから、中央委員会での方針決定に先駆けて、執行部案を先行して発表させてもらい、賃上げに向けての機運醸成
を図った」
「さらにサービス連合本部としては、組織支援局を設置して、各加盟組合とコンタクトを取りつつ、経営側への要求の検討において
迷いなどがあれば適宜支援を行う体制を整えた。あわせて、サービス連合本部として関係する7つの業界団体に対して、長時間労働の是正を始めとした労働環境の改善などについても申し入れを行う取り組みも行った」
■同時要求として勤務間インターバルの導入やカスタマーハラスメント(カスハラ)対策についても盛り込んだ。
「勤務間インターバル制度はサービス・ツーリズム産業には馴染みにくいものではないかという考えから、これまで方針として掲げてはこなかったが、ワーク・ライフ・バランスの充実という観点から到達目標11時間を設定して取り組むこととした」
「カスハラに関しては産業として遭遇しやすい業種の1つである。社会全体としてそれが起きないという方向に進めばいいが、現状ではどうしても受けてしまうということがあるので、その時にしっかりと労働者をも持つ体制を整えることが重要であると考え、今回の春闘の活動方針の中に盛り込み、労使間でしっかりとした体制構築に取り組むことができれば良いと考えている」
若年層に対してツーリズム産業の楽しさ訴える
■サービス連合の今後の組織拡大についてはどのように考えているのか
「サービス・ツーリズム産業の地位向上に対してさまざまなことを訴えていく上では、やはり組織力の強化というのは大事なポイントとなってくる。労働者は立場として弱い部分もあり、サービス・ツーリズム産業に関わる人々の中には、労働環境や労働条件の面で守られずにつらい思いをしている人は、まだまだたくさんいると考えている」
「そのためにも組織率を高めていく必要があると考えている。サービス連合としては組織拡大を専門に取り組む『組織拡大局』を設置しているところだ。今後はそこを中心として、まだ労働組合を持たない企業への働きかけや、加盟組合のある企業においても労働組合があるということの必要性を訴えていきたい」
■日本が今後観光立国を目指していく上で、働く者の立場として訴えていきたいこととは
「2030年の訪日外国人6000万人という目標の実現などに向けて、まだまだ体制がしっかりと構築されていない分野もあると考えている。また、地域の津々浦々に観光の効果が行き渡るような施策に取り組んでもらいたい」
「また、われわれも大学などで講演させてもらう機会などもあるが、若い世代に対してツーリズム産業のやりがいや楽しさというものをもっと訴えていくことが重要であると思うし、教育の現場においても旅の魅力をもっと発信していくことができるような環境づくりも重要なのではないかと考えている。
※写真=本紙とのインタビューに応じたサービス連合の櫻田あすか会長
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