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2017.04.24

IRにカジノはいらない?

 1年ぶりにマカオへ取材に行った。カジノのイメージから世界遺産の街、そしてエンターテイメント・シティリゾートへ成長を続けるマカオは、この1年でまた大きく変貌している。行く度に、マカオは「持続的に成長を続けるデスティネーション」を具現化していると実感する。
 とくに、マカオの成長の核となるのがコタイ地区だ。昨年のウィン・パレス、ザ・パリジャン、今年から来年にMGMコタイ、モーフィアスホテル、グランド・リスボア・パレスなどの開業によりIR(統合型リゾート)がさらに充実する。
 コタイ地区には、ギャラクシー・エンターテイメント、メルコ・クラウン・エンターテイメント、サンズ・チャイナ、ウィン・リゾーツ、MGMチャイナ、SJMホールディングスの6つのメガIR各社が来年には揃い、エンターテイメント・シティ・リゾートとして競争を繰り広げる。
 これらの6つのメガリゾートは、ラスベガスに親会社をもつ企業を含めて、日本のIR開発に大きな関心を寄せており、既に入札参加に名乗りを上げている企業も出ている。
 取材したマカオのIR関係者は、カジノは開発への原資となるが、IRの中核はエンターテイメントとMICEであることを異口同音に強調する。マカオのホテル開発もファミリー需要をターゲットの中心に据えていると同時に、MICE需要獲得に向けて大型会議施設などの建設も計画されている。
 わが国は昨年12月に、IR推進修正案が衆議院で賛成多数により可決成立した。正式名称の「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」を通称で「IR推進法案」するのは分かるが、「カジノ法案」とするのは誤解を招く。カジノが一部であるにも関わらず、カジノだけが取り沙汰されるのはやはり納得がいかない。
 そのあたりは、政府関係者、国会議員などはマカオに行ったらすぐにカジノに向かうのではなく、マカオのIRを丹念に視察してほしいと思う。
 日本旅行業協会(JATA)の田川博己会長は、「カジノがなければIRではないのか。東京ディズニーリゾートは、カジノはないがエンターテイメントIR」と問題提起し、「複合観光施設の中でも、IRとは何かを定義していかなければならない」として、IRでカジノの設置は絶対条件ではないと指摘した。
 とくに、田川会長は「ラスベガスは当初はカジノ中心だったが、だんだん街が変わり、エンターテインメントの中心地になった。その意味では、最初の誘致段階では、大きなリゾートの中にカジノがあった方がいいケースもある」と指摘。新たなリゾート開発の初期段階ではIR施設のなかにカジノを作る一定の意義は認めた。
 マカオに行くと、この発言の意味がよく分かる。マカオのIR担当者はもとより、旅行関係者もマカオがカジノ・ゲーミングから、世界遺産とエンターテイメント・シティ・リゾートへと発展することを期待している。
 首都大学東京の本保芳明特任教授も「カジノでなくても、収益があればできることなので、全てカジノと一緒でなければIR施設にならないということはない気がする」と語る。
 つまり、IRが持続的に成長するための原資がカジノ収益なのだが、それがカジノではなく、ディズニーやUSJのアトラクション収入なら理想的といえる。現実的ではないかもしれないが、東京ディズニーリゾートに大型MICE施設を併設すれば、これは最高の「IR」となろう。
 MGMによると、ラスベガス全体の70%の観光収入がカジノ以外で占めている。IRはカジノだけでなく、エンターテイメント、食事、ショッピングなどの収入で構成されている。また、ラスベガスのマンダリン・ベイ・リゾートは、全体収入の50-60%がMICE関連収入という。
 IRの方向性はエンターテイメントとMICE。IRという大きな一つの屋根の下に、宿泊施設、レストラン、ショッピングモール、国際会議施設、エンターテイメント施設が揃う。IRでカジノが主役でないことを改めて認識すべきだ。(石原)