OTAは旅行業ではない
中国最大手のOTA、Ctripグループの国内運営会社が、国内宿泊施設の許可なく、満室の部屋を空販売した問題で、観光庁は立入検査を実施し、実態の解明に急いでいる。この問題が明るみになって、改めて思ったことは「OTAは旅行業ではない」ということだ。
大手旅行会社社長にインタビューしたときに、「OTAはトラベルエージェントではなく、システムカンパニー」と語った言葉が、今回のことを端的に表しているように思う。
インターネットを利用した流通大手は、様々なものを販売しているが、宿泊施設、航空券もその一部で、「モノ」なのだ。そこには、おもてなし、感動、体験、思い出など、旅行の目的である感情が伴うのだが、「モノ」と同じ扱いだから、こうしたことが起こるのだと思う。
旅行は感動体験などの手段であり、宿泊施設、航空機はその重要な構成要素であり、それによって感動体験が天と地ほど違ってくるのだが、OTAではそうした旅行の持つ最も大事な部分が欠落している。
観光庁が注意喚起した「海外OTAを利用する際にはご注意ください!」は、消費者に対し、「OTAとの契約条件や、当該OTAが日本の旅行業法登録を受けているか等予めご確認いただくとともに、海外OTAを利用される際には、十分にご注意ください」と呼びかけている。
これは、「OTAを使うなら気を付けろ!」と言っているようなものだ。
中国のCtripに旅行業登録はない。子会社のシートリップ・ジャパンは第1種旅行業に登録している。別の第3種旅行業の関連会社もある。だが、「空販売」は一部の悪質な販売業者によるもので、「当サイトはプラットフォームのビジネスモデルで運営している」とし、販売業者の責任があることを強調している。
裏を返せば、「プラットフォーム・ビジネス」なら、何があっても法律の適用外だから許されるのか。グローバルに展開するインターネット・ビジネスだから、「場貸し」だから、「メタサーチ」だから、我々には関係ない、と言っているように聞こえる。その一方で、日本におけるガイドラインを尊重し、日本の法律を遵守する姿勢を表明している。
「オンライン旅行取引の表示等に対するガイドライン」は、2015年に策定された。プラットフォーム・ビジネスはこの3年間で、さらに大きく成長した。新たなテクノロジー、新たなビジネスモデル、新たなプレイヤーも生まれ、決済手段も当時はクレジットカードが主体だった、今や様々な決済手段が使われている。
OTAは「オンライン・トラベル・エージェント」の略だが、旅行業界だからOTAと言っているだけで、彼らは「プラットフォーム・ビジネス」であり、扱っている商材がたまたま「旅行」に過ぎない。
「オンライン旅行取引の表示等に対するガイドライン」を再読するといい。この3年間で、大きく環境が変わっている。オンラインビジネスにAIが導入されようとしている時代だ。今のままでは、同様なことが形を変えて起こり得る。現状のガイドラインでは対応できないことが想定される。もう一度、ガイドラインを見直す必要があるのではないか。
海外OTAは、日本の旅行業法の網にかからない。「ガイドライン」では自ずと限界がある。だが、海外OTAが「日本におけるガイドラインを尊重し、日本の法律を遵守する」なら、ガイドラインをもっと厳しくしても良いのではないか。
観光庁は今後の旅行者拡大を見据えて、「OTAガイドライン検討委員会」を設置し、時代に合った新たなOTAガイドラインを策定すべきだ。とくに、消費者保護を言うなら、プラットフォーム・ビジネスでも旅行は「人流」であり、「物流」ではないことを知らしめるべきだ。(石原)