JALの国際線戦略
日本航空(JAL)は中期経営計画のローリングプランを発表し、2018−20年度の3カ年計画を修正した。国内線の供給がある程度行き届き、国内で上積みが望めない状況で、国際線の事業拡大を上方修正し、20年度までの国際線の座席供給量(ASK)を17年度比25%増と大幅に拡大する。
この事業規模を達成するには、年平均8〜9%台で国際線を成長させなくてはならない。新しく設立する中長距離LCCを除いても、国際線の成長率は17年度比22%増で、その場合も年平均7%台の伸びが必要になる。
アジアを中心とする国際旅客数の拡大で、航空各社は国際線事業規模の拡大を進めている。例えば、スターアライアンスで全日空(ANA)と共同事業を展開するユナイテッド航空(UAL)の国際線成長率は4〜6%だ。2017年は前年比5.5%増で、2020年までこの成長率を維持するという。
新型機材の導入や大型化を図ったとしても、この伸びを維持することが精一杯ではないか。JALの国際線供給量拡大に伴う機材計画を見ても、年平均7%以上の成長率を達成できるとは思えない。
それを達成するためにJALは機材の座席数を見直し、エコノミークラスを増やして供給量に対応する計画を示した。ボーイング787型機は186席から206席、777型機は236席から312席に仕様を変更し、アジアからの訪日インバウンド旅行者の受入拡大を図るという。
航空会社は国際線でこれまで、ビジネスクラスのプロダクト・サービスの拡充に努めてきた。レベニューマネジメントを徹底する中で、収益性の高いビジネス需要の取り込みが競争の中心にあった。日米路線がその顕著な例で、各社ともにビジネスクラスのサービス向上を競い合ってきた。
これが一段落し、次なるサービスとして、各社ともにビジネスとエコノミーの中間に位置する「プレミアム・エコノミークラス」にプロダクト・サービスの比重を置いている。エコノミークラスから収益性の高いプレミアム・エコノミークラスへのシフト需要の拡大を図る。
JALも日米路線等ではこうした戦略だが、アジア路線等ではエコノミークラスの拡大によって、かつて日本人が747型機で海外へ大量送客したように、アジアからのレジャー需要の訪日旅行者を取り込むということだろう。
では、新設する国際線中長距離LCCはどのような位置づけになるのか。JALでは「高価格帯で成長が安定している路線はJAL(FSC)、価格志向が強く、成長率のある路線は中長距離LCC」と住み分ける。
アジアの航空会社と競合するレジャー需要のエコノミークラスで、高価格帯で競争することができるのか。ハードとソフトの両面でJALらしさを打ち出していくと思うが、アジアの旅行者もエコノミーから一つ上のプレミアム・エコノミーのニーズが高まるのではないか。エコノミークラスが低価格化すると収益性が低くなる可能性もある。
アジア市場におけるLCC間の競争はFSCの比ではない。中長距離LCC会社は、2020年3月末から成田−アジア・欧米路線を運航する計画。JALはこれまで、低コスト志向の航空会社を設立しては失敗してきた。その理由は、JALの高コスト体質にある。JALと一線を画する低コスト体質の航空会社が設立できるかどうかが中距離LCC会社成否のカギを握る。
JALの説明だけでは、JALのエコノミークラスと中距離LCCの住み分けは、不透明感が否めない。おそらく国際線はJALが羽田、中長距離LCCが成田をハブに運航することを見据えているのだろう。
旅行業界にとっては、JALのエコノミークラスの供給席数が拡大することは、レジャー需要の日本人旅行者を送客する上ではプラス要因となる。まずは日本人の便宜を図ることが日本の航空会社の役目である。(石原)