JALの成長戦略はどこに
今年3月に「8.10ペーパー」から解放された日本航空(JAL)は中期経営計画を策定し、一方でほぼ同時にANAホールディングスも中期経営計画をローリングして2017年度版として発表した。
JALの中期経営計画は「挑戦」「成長」など抽象的な表現が多く、具体的な路線計画や詳細な数値目標などは今後明らかになるとみられる。
それでも、売上高を2016年度比で旅客と貨物事業は各1.1倍、航空関連・新規事業を1.3倍に伸ばすことを目標とした。
2016年度決算の売上高は旅客事業が9138億円(前年度比7.5%減)、貨物事業が655億円(同15.5%減)、その他事業が3095億円(同0.2%増)、合計が1兆2889億円(同3.6%減)。
これを元に算出すると、2020年度の売上高は旅客事業が1兆51億円、貨物事業が720億円、その他事業を航空関連・新規事業として4023億円、合計は1兆4795円。記者会見では「2020年度の売上高1兆5000億円」を目途としていたが、ほぼこれに沿ったものといえる。
JALの2016年度決算の営業利益は1703億円で、売上高営業利益率は13.2%だった。中期計画では2020年度営業利益率10%以上、投資利益率(ROIC)9%以上を目標とする。したがって、2020年度売上高が1兆5000億円なら営業利益は1500億円以上の確保をめざす。
そのための投資額として17年度に2210億円、18−20年度の3年間に総額2200億円を投入して、機材、機内、ラウンジ、ITインフラなどの整備に充当する。そして、めざす方向は「フルサービスキャリア事業を磨き上げ、航空以外の事業領域を広げる」という。
JALは再建のために不採算路線からの撤退、人件費の削減などの合理化・効率化を進め、イールド志向を徹底させて、経営体質をスリム化してきた。これにより、「5年連続営業利益率10%以上、2016年度末自己資本比率50%以上」は達成した。
しかし、16年度は前年度比で、売上高は3.6%減だが、売上総利益(粗利益)は11%下がり、3620億円と4000億円を割った。販管費の削減で営業利益は1703億円を確保したが、前年度の2091億円から19%も減少した。
JALは「8.10ペーパー」で我慢に我慢を重ねてきたわけだから、ここは解き放たれて、事業規模の拡大に向けて成長戦略を打ち出してほしかった。新規事業はともかくとして、FSC事業を磨き上げるだけでは、成長は難しいのではないか。
ANAグループの16年度売上高は、1兆7652億円。この5年間で5000億円近くまで広がった。JALの中期計画では20年度になってもANAの16年度売上高に及ばない。ANAの2020年度売上高目標2兆1600億円と比較すると、20年度末には売上高の差は6600億円とさらに広がることになる。
ANAグループの中期計画では、15年比でLCC事業を9.6倍に拡大し、国際FSC事業、貨物事業と並ぶ成長事業の柱に据える。ANAはエアアジアと合弁の旧エアアジア・ジャパンの解消、バニラエアの設立、ピーチ・アビエーションの連結子会社化と、言わば試行錯誤を続けながらLCC事業を持続的に展開している。
ANAは、国際線ASK(有効座席キロ)とRPK(有償旅客キロ)で、既に国内線のそれを上回っているが、「2020年までに、売上高も国際線が国内線を上回る」と予想しており、文字通り、旅客収入の中心は国際線となる。一方で、JALも国際線を「成長ドライバー」と位置づけ、国際線のASKを16年度比で23%増に高める。
競争の舞台は国際線になる。その中で、成長するインバウンド、新規需要を開拓するアウトバウンドを取り込むためのカギはLCC事業ではないか。出資会社のジェットスター・ジャパンとの今後の関係を含めて、JALグループが航空事業の成長戦略を打ち出してくることを期待する。(石原)