エアホに舵切るJTB
てるみくらぶが倒産した時、気になったことがある。どうして、あれだけ沢山の人が、てるみくらぶを利用して旅行していたのか。随分前から「危ない」と噂になり、インターネットで検索しても、その話が並んでいた。それにも関わらずである。
海外個人旅行はOTAが台頭していると言われるが、それではなぜOTAを使わずに、てるみくらぶでツアーを申し込んでいたのか。答えはOTAを利用するよりも、てるみくらぶのパッケージの方が安いからだ。
海外旅行代金は以前と比べて高くなった。かつては低価格の海外リゾートの代名詞のように言われたデスティネーションでも、今の旅行代金は最安値の2倍はする。そのため、LCCを予約し、OTAでホテルを申し込んで、別のリゾートなどに行く旅行者は多い。
誤解なきように言うが、旅行会社がツアーの低価格競争をしていた時代が問題で、現在の方が適正価格に近くなったとは思う。但し、それは事業者目線であって、利用者目線ではない。
パッケージツアーをもっと安く求めている顧客層は多く、そのニーズがてるみくらぶを求めた。てるみくらぶでツアーを購入し、ホテルは捨てて、別のグレードの高いホテルを予約しても安いという話もある。
事業者目線では適正価格であっても、利用者目線では値頃感は感じられないということで、やり方はともかく、てるみくらぶは倒産するまでは利用者にニーズに応えていたことになる。では、この需要をどうするのか。
JTBの高橋社長は記者会見で、海外個人旅行商品について、JTBのダイナミックパッケージ「エアホ」を主力商品として拡大することを明言した。エアホを「マーケットが求めている以上は提供する。ウェブ商品として展開し、エアホのシェアを拡大する」とし、LCCを利用した商品展開も進めていく。
高橋社長は「海外個人旅行市場は高額化と低価格化に完璧に2極化し、低価格志向はウェブ販売に移行する」と言い切る。低価格商品の需要にはエアホで対応する。ある程度のインフラが整備された都市型リゾートやビーチリゾートは、ダイナミックパッケージで充分に対応できる。価格面とともに、旅行会社ならではのサービスを提供できれば、OTAや他の旅行会社に対して優位に立つことも可能だろう。
エアホを拡充するためには、エアの座席とホテルの部屋の在庫を豊富に確保しなくてはならない。高橋社長が常々語る「仕入を制する者が販売を制する」につながる。そのために、海外は仕入れをJTBワールドバケーションズに一本化し、それは来年度の再統合でさらに迅速に強化される。
エアの座席の確保では、ハワイ方面の買い取りに加えて、オセアニア、東南アジア方面の仕入れ拡大を挙げた。OTAと同じ土俵には立たないが、仕入れを制して、エアホのウェブ販売を強化する。
JTBは2016年度決算で、5期ぶりの減収を余儀なくされた。その最大の要因は、海外個人旅行の低迷にある。JTBは今でも日本の旅行業界では「ガリバー」ではあるが、かつての世界一の事業規模から、今は海外OTAや海外他社の積極的なM&Aやグローバル化に遅れを取っている。
JTBもグローバル戦略でM&Aを展開し、直近でもクオニの旅行部門を買収しているが、今後も国内はもとより世界で戦う上で、M&Aは避けられない。
JTBの海外個人旅行の課題は、日本の旅行業界全体の課題でもある。エアホの強化は、低価格市場で、国内大手旅行会社間の競争を激化させる。安売りの中小旅行会社は到底太刀打ちできなくなる。さらに、OTAとの競争も熾烈化する。
JTBはグローバル化を進める中で、売上高の海外個人旅行への依存度は下がっているが、それでも36%を維持する。エアホの動向は、低価格パッケージツアーの将来を決めるかもしれない。(石原)