IPWとトランプ政権
全米最大のトラベルトレードショーIPW(旧パウワウ)が初めてワシントンで開催され、久しぶりにワシントンを訪れた。確か、1990年代に航空規制緩和、国内・国際線のダブルトラック化で、JALが成田−ワシントン線に就航して以来だから20年ぶりくらいだろうか。当時と比べると、今のワシントンは整然としていて、緑の多い、実に美しい街という印象を受ける。
ワシントンでの開催ということで、IPWの主催者や関係者に聞くと、今年はいつもと雰囲気はちょっと違うようだ。IPWは国内旅行と訪米インバウンドのB2Bの商談会がメインだが、初めて訪れた90年代と比べると、比重は圧倒的に訪米インバウンドの促進になった。そして、上院・下院の議員が多く集まっていることもワシントンDC開催ならではだろう。
とくに、ワシントン開催は全くの偶然だが、トランプ政権の誕生という米国だけでなく、世界を驚かせた出来事があって、いつもとは違う所に注目が集まり、ポリティカルな面も顔を出す大会となった。
グランドオープニングの6月5日、ブランドUSAのクリストファー・トンプソンCEOの記者会見も、新政権を意識した内容になった。会見の冒頭から、4年前の2012年、オバマ政権下でブランドUSAが発足し、訪米プロモーションの成果によって、この4年間に米国を訪問した海外からの旅行者の増加、消費額の拡大、雇用の創出が米国経済の成長にいかに貢献したかをアピールする場になった。
これまでのIPWは、その年の訪米促進キャンペーンやプロモーションの内容、新たな訪米促進のための施策などが大きな話題となったが、今回はこの4年間の実績から始まった。これはメディアを通して、一般社会、業界、そしてトランプ政権に観光施策の重要性を訴えたいとの思いが強くあると推察した
日本人から見ると、日本航空の再建が当時の民主党(現民進党)政権の功績として、現自民党政権で取り沙汰されたように、米民主党オバマ政権下でESTAの導入、それを原資にするブランドUSAの訪米プロモーション施策の功績を訴えると、そうしたことに否定的な態度が目立つトランプ政権下では、「逆に大丈夫か」と思ってしまう。
しかし、そこは米国。これまでの訪米施策を数字で示すことにより、訪米インバウンドの拡大がいかに重要かを理路整然と訴える。
5日のグランドオープンニングの昼食会の基調講演には、トランプ政権を支えるウィルバー・ロス商務省長官が登壇、USトラベルアソシエーション(UST)によるIPW、ブランドUSAによる訪米インバウンド施策が米国経済にもたらした功績を称えた。
USTのロジャー・ダウCEOは、今年4月の直近の海外からの訪米旅行者が日本を含めて伸びていることを数字で示し、観光産業に携わる全米の雇用創出を含めて、訪米旅行促進政策に後ろ向きな態度を取るトランプ政権を数字で反論した。
IPWに集結する全米の業界関係者には、政権交代により、観光産業がこの先どうなるかという強い危機感が感じられる。
また、現政権下でのテロ対策、保安対策の強化で、訪米旅行が行きづらくなることへの危惧について、ブランドUSAのトンプソンCEOは、世界各国を対象にしたアンケート調査で、とくにアジアはそれに対して影響はないという回答が多く、冷静に対応できるとの見解を示した。
ただ、2016年の全体の訪米旅行者数は前年比マイナスの見通しで、様々な要因があるとはいえ、今年の巻き返しを数字で示すことが、現政権に観光産業の重要性を認識させることにつながる。
田川博己JATA会長が日米観光合同ミーティングで指摘したが、環境対策は観光の持続的成長に最重要な課題であり、米国のパリ協定離脱の影響は大きい。2021年までに1億人の訪米旅行者をめざす米国は、日本の観光立国政策の見本のようなところもあり、今後の動向を注視する必要がある。(石原)