国から地方へ深化
海外旅行プロモーションをどう展開するか。限られた予算の中で、観光局サイドが最も頭を悩ますことと思う。とくに、B2C向けでは、テレビ・新聞・雑誌広告、輸送機関を使った交通広告からインターネットが主流となり、ブロガー、インフルエンサーの起用から、一般旅行者によるSNS等への投稿・拡散などが今の流行りのようだ。
加えて、各国の日本市場に対するプロモーションは、他国とは違って日本独特のユニークなところがある。日本の場合、有名タレントや歌手を使った「観光大使」を起用するプロモーションが際立っている。実際、記者会見すれば、テレビ、新聞が大々的に取り上げるし、その効果は非常に大きい。
いま最も人気の高いタレントや歌手を起用するので、相当な出演料が必要と思うが、実際には「タイアップ」の場合もあり、観光局によって契約は異なるだろうが、実質無料出演の場合もあるという。
それよりも、日本市場に対するマーケティング調査で、観光大使の起用が結果として、送客に現れていることが大きい。
ある観光局の日本代表は、「タレントや歌手を観光大使に起用することに当初は違和感があったが、日本市場ではそれが結果に結びつく。デスティネーションそのものの魅力を訴えることは大事だが、有名人を通して訴えるほうが結果として効果が出る」と語る。
観光とは関係ないが、一時、社会問題化したタレントのステルス・マーケティングも、日本では効果があるから行われていたのだろう。諸外国でも同様のことはあるだろうが、日本ではこうしたことが他国よりも目立っているように思う。
テレビを見ても、日本の場合は毎日のように「芸能人」が登場する番組が目白押しで、欧米のテレビを見ても、ここまで連日のようにバラエティ番組がどこのチャンネルでも放送されているというのは例はあまりないのではないか。
多分、こうした日本の独特な環境が観光プロモーションにおける「芸能人」の観光大使任命にも現れているのだろう。
それが結果的に、日本市場からの送客に効果が出ているわけで、タイアップなどににより、費用対効果が見込めるなら、実施するのは必然に近いのかもしれない。
インターネットによる口コミが大きな効果を発揮する時代。世界を旅する人々がSNSでその魅力を伝え、拡散し、それによって多くの人が世界を旅することは実に理にかなっている。そこに様々な手法が介在しているかもしれないが、「写真」は「真実」に近いので、インスタグラムの効果はよく分かる。
これから求められるのは、作為的なものよりも自然なものではないか。海外や国内の旅番組を見ると、地元の人々と触れ合い、地元の魅力を引き出すものが多い。タレントもその引き立て役としての能力に長けた人が起用されている。
ブランドUSAの新しい訪米旅行促進キャンペーン「One Big Welcome」は、地元の人々が出演する海外向けビデオウェルカムメッセージ。米国のローカルの良さを旅行者をシェアするもの。トンプソンCEOは「地元の人々のメッセージが最も説得力がある」と語る。
これは訪米に限ったことでなく、欧州、アジア、訪日でも同様だ。B2Bでもカントリーサイドの深堀りが今後の方向であるように、B2Cもローカル色を強めていく。国の魅力から、その国の地方の魅力へ。プロモーションは深化する。
有名タレントの「観光大使」はその国の観光を代表し、若者、熟年、女性と顧客ターゲットを絞り込んだプロもモーションが展開される。そこからさらに、観光大使がその国の地方プロモーションに起用される場合も出てくるだろう。(石原)