「出国税」は日本版ESTA
出国日本人や訪日外国人から「出国税」を徴収する税制改正要望を行うとの一部報道に対して論議を読んでいる。田村観光庁長官は記者会見で、観光財源確保のあり方について検討を進めていることは事実として認めているが、「出国税に絞っているわけではない」として、現時点で様々な可能性を模索している状況と説明している。
欧米などの「出国税」は、基本的には「空港使用税」で、航空券にオンチケットされている場合が多い。各国がこの税収入をインバウンド政策の財源としているかは定かではないが、基本的には空港整備財源と考えるのが妥当だ。
米国では空港使用税とは別に、国土安全保障省がESTA(電子渡航認証システム)をオバマ政権時代の2009年から義務化し、訪米短期旅行者には1人14ドル(2年有効)の徴収を義務付けた。
ESTAの1人14ドルのうち10ドルが訪米プロモーション予算に充当され、オバマ大統領が設立したブランドUSAが、日本をはじめ世界各国に対して旅行イベントへの出展、セールスミッション派遣、キャンペーン展開などを実施している。これを財源にブランドUSAは2021年までに訪米旅行者1億人の達成を目標にしている。
また、ヨーロッパも昨年11月に欧州委員会が、日本など査証(ビザ)が免除されている渡航者に対する保安検査を強化するため、ETIAS(欧州渡航情報認証制度)の創設を提案した。導入は2020年を目途としている。
フランス、イタリア、ドイツ、スイス、スペインなど出入国検査を撤廃したシェンゲン協定を締結している欧州26カ国が対象で、ETIASの手数料は5ユーロ(約590円)で5年間有効。18歳以上の全ての申請者に適用されるとしている。
ヨーロッパの場合、ETIASは欧州でのテロ事件、移民・難民流入などを受けての保安対策の財源としており、観光インフラ整備の目的税ではないとされるが、ヨーロッパ各国が観光インフラ整備を合わせて徴収してもおかしくはない。
米国のESTAも、トランプ大統領は訪米プロモーションに充当する1人10ドルを保安対策に振り向ける考えとされ、ブランドUSAの存在そのものが脅かされかねない事態となった。今年6月にワシントンで開催されたIPWは、さながらブランドUSAによる訪米プロモーションの成果をアピールする場となった。
ESTAを参考に、インバウンド観光振興のために「日本版ESTA」を導入することはあり得る。2020年の4000万人、2030年の6000万人をめざすためのプロモーション予算の確保は今後の大きな課題となる。
一方で、米国では観光振興目的にホテル税がある。日本の法定税は温泉地の宿泊施設の「入湯税」がある。東京都と大阪府は法定外目的税として宿泊税を導入している。全国地方自治体では、観光目的の地方税として「宿泊税」の法定化を求めており、観光DMOによる観光振興の財源としたい意向のようだ。
政府の「観光ビジョン実現プログラム2017」では、「観光立国の実現による経済再生と財政健全化を両立させる観点から、引き続き観光関係予算の適切な確保に努めるとともに、今後のインバウンド拡大等増加する観光需要に対して高次元で観光施策を実行するため、国の追加的な財源の確保策について検討を行う」と明記している。
インバウンド拡大に伴う観光振興を実行するための財源確保ということは、米国ESTAと同様に訪日観光振興ための財源確保となる。「出国税」がそれに該当するなら、訪日外国人旅行者に対して徴収するものであり、日本人出国者から徴収することは納得できない。「出国税」は「日本版ESTA」としてインバウンドに限定したものとするべきだ。(石原)