観光財源は誰が望むのか
観光庁は「次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会」で航空業界、旅行業界、宿泊業界、海運業界、地方自治体などからヒアリングを実施し、11月頃にとりまとめる。
既に検討会では、新たな観光財源を出国旅客、航空旅客(国内含む)、宿泊の3つに分類。出国旅客から徴収する「出国税」は、先にヒアリングした航空業界から、訪日需要への影響は「1000円程度なら影響はほぼないが、日本人、日本人居住者には1000円前後でも需要減は避けられない」と懸念。だが、アウトバウンドへの支援とオンチケットで徴収、空港施設、航空業界への投資を要望し、反対はしなかった。
旅行業界からヒアリングに出席したJATA志村格理事長は、日本人出国者にも出国税を徴収することは、「必ずしも反対しない。米国ESTA方式が一番望ましいが、日本の観光財源が今後必要は分からなくはないので、反対ではない。その代わり、日本人も裨益(受益)する使途が必要」と会見で語り、旅行業界も反対しなかった。
一方で、航空旅行は「日本人からの負担が多くなり、受益と負担の相関性がアンバランスになるのではないか」と疑問を呈する意見や「システム改修に膨大な費用がかかる」といった国内旅行業界からの反対が強かったという。
宿泊は、現在一部自治体で宿泊税が導入されており、ここに新財源を導入した場合に二重課税となる可能性を懸念する声や「仮に宿泊を対象とした場合、民泊を網羅することができるのか」といった反対意見が寄せられた。
こうなると、出国税の実現が高まるが、JATAは日本人出国者の受益者負担の使途として、①若者の海外旅行促進②日本人旅行者の安全確保③双方向交流促進の3点を挙げ、志村理事長は「1800万人近くいる日本人出国者に対して、新規の財源としてお金を取るからには、新しい政策が必要ではないか」と主張、とくに、日本人海外旅行者の安全確保に向けて、旅行会社と「たびレジ」システム連携の強化を最優先に求めていく方針を示した。
この先、日本人が海外でテロに遭遇する危険は高まるはずで、旅行会社と「たびレジ」システム連携は安全確保の面で非常に重要とは思うが、直接的な海外旅行需要喚起とは結びつかない。日本人出国者の受益者の使途としては、仮に1人1000円徴収とすれば、海外旅行をする日本人の一人として、受益者負担の使途としては見合わないと思う。
しかも、オンチケットとなると、旅行会社が消費者から代理徴収するケースが多く、旅行会社はシステム改修に多額の費用が必要になる。その改修費用に加えて、利用者からの苦情、説明などにも対応せざるを得ず、旅行会社の時間的、金銭的コスト負担は増す。
2018年度の観光庁概算要求は前年比17%増の247億円。草創期の時代から20億円の予算化、さらに100億円の大台に達した時から見ると隔世の感がある。
今回の新たな観光財源のあり方検討会で提示された1人1000円を、今年見込めそうなインバウンド2800万人、アウトバウンド1800万人、合計4600万人から徴収すると、460億円の観光財源を確保することになる。
ただ、日本の観光インフラは相当整備が進んでおり、地方へのWi-Fi普及、多言語化、文化財の発掘などいろいろと使途が言われているが、新たな観光財源として税を課すほど必要なのだろうか。今や欧米よりも日本の方が進んでいるところもある。国がすべきことは、ある段階まで来ており、民間にできることは民間に任せてもいいのではないか。
訪日インバウンドは中国・韓国の依存度が高い。仮に出国税の導入で、中韓両国が反発して急激に減速したどうするのだろうか。内外無差別で日本人からも徴収することなど、両国は知ったことではないような気もする。両国が日本と同様の出国税の導入を検討するなら別だが。
出国税の導入を旅行業界は望んでいない。訪日旅行者も望んでいない。日本国民は出国税の導入を望んでいるだろうか。(石原)