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2019.05.20

「タビナカ」で負けるな

 いま「タビナカ」事業が元気だ。国内旅行はもとより、海外旅行、訪日旅行もFITの個人旅行化が進み、旅先で効率的に魅力的な観光地を巡ることに焦点が当たりつつある。
 国内旅行は航空機・鉄道・バス・自家用車と移動手段は多彩で、自家用車は旅行目的までは直接行くことはできるが、公共輸送手段から目的までのアクセスが課題になる。
 最近は着地型の現地発着ツアー商品が増えており、航空機・鉄道利用ならダイナミック・パッケージ、OTA、航空機・ホテル直接予約と現地発着ツアーを組み合わせる人が増えている。
 国内旅行は、地方で空港や駅からのアクセスが割高なので、行きたい観光地への現地発着ツアーのニーズは高い。クルーズのエクスカーションのように、「タビナカ」の現地発着ツアーの要望が高いようだ。
 訪日旅行でも「タビナカ」需要は増えている。既に、専門の旅行会社も増加し、訪日旅行の拡大に伴い、そのニーズはさらに高まるだろう。大手旅行会社もタビナカ事業を手がけているが、なかなか難しい局面にあるようだ。訪日旅行の場合は、タビナカ事業は「タビマエ」で決まる部分もあり、やはり言葉はもとより気心の知れる同一国の会社主催のツアーを求めることになるのだろう。
 同じことが日本でも言える。海外旅行で現地発着の「タビナカ」事業が活況を呈している。それだけ、日本の海外旅行のFIT化が進んだといえる。
 旅行業界のFAMツアーでも、タビナカ専門の会社と一緒になることが多くなった。見ていると、現地催行会社との商談はスムーズで、日本市場に対する現地発着ツアーのニーズが高いことを改めて認識させられる。
 海外旅行のFIT化が始まった1990年代頃から、現地発着ツアーのみの販売が注目され始めた。日本の旅行会社は、パッケージツアーに現地発着ツアーを組み込んだり、オプショナルツアーとして設定した。
 旅行会社はオプショナルの現地発着ツアーのニーズがFIT化の進行によって高まることが分かっていたはずなのに、なぜ専門会社の台頭を許してしまったのか。このことが前から疑問だった。
 旅行会社で現地子会社の社長を務めた業界の論客に聞くと、そこには「責任」と「インターネット」の二つのキーワードが関わっていた。
 まず「責任」とは。現地催行会社のオプショナルツアーを販売するにしても、旅行会社としての「責任」が伴う。万一、事故が起きれば、旅行会社として責任を問われる。専門会社の場合は、催行会社の代理販売であり、基本的に旅行者と催行会社との間で生じた損害の責任は追わない。現地にコストも掛けていない。
 そして販売は「インターネット」。ウェブの技術と価格で勝負する。基本的にOTAと同じ場貸しサイトであり、宿泊施設や航空券と同じように現地発着オプショナルツアーを販売するという形式を取っている。
 ここまで来ても、やはり腑に落ちない。現地発着ツアー専門のサイトを立ち上げて販売し、成功している会社がある。それは時代のニーズである。それなら、旅行会社も専門の子会社を設立するか、専門部署をつくるか、場合によってはM&Aで、現地発着ツアー専門のウェブサイトを立ち上げ、専門会社に「中身と価格」で真っ向勝負を挑んだらどうか。
 強大なOTAと体力勝負は難しいが、今の専門会社の経営規模なら十分に勝負できるし、旅行を熟知している旅行会社なら中身の濃いオプショナルツアーを催行会社とつくることができるし、市場を奪うことも可能と考える。
 極論すると、航空機やホテルの選択は旅行者に任せておけばいい。旅行の主たる目的は現地で何を見て、何を感じ、何を体験するかだ。
 パッケージツアーを否定するものではないが、旅行会社ならではの現地発着ツアーを提供してほしい。異業種から参入した専門会社の後塵を拝するなど、実に悔しいことではないか。(石原)