責任ある観光
今年のジャパン・ツーリズム・アワードが決定した。国土交通大臣賞には百戦錬磨の「農泊と世界をつなぐ地域活性化サービス」、観光庁長官賞は佐野嬉野バリアフリーセンター、田辺市熊野ツーリズムビューロー、パラオ政府観光局の3団体が受賞した。
この4団体は紙一重の差で、どの団体が国土交通大臣賞に受賞しても遜色なかった。惜しくも国土交通大臣賞、観光庁長官賞に届かなかった団体の取り組みにも優秀なものが今年は多かった。その要因には、アワードが5回目を迎えて、どの団体もノウハウを蓄積しており、成熟度が高まっていた。
今年の特徴として、レスポンシビリティ・ツーリズム、サスティナブル・ツーリズム、エコ・ツーリズム、そしてユニバーサル・ツーリズムなど、観光の社会的責任を問う取り組みが多かった。
ユニバーサル・ツーリズムについて触れると、先に選定されたJATAツアーグランプリでも同じことが言えるが、社会的にニーズが高く、政府が推進していることもあり、ユニバーサル・ツーリズムのツアー造成や取り組みは、一つの潮流で、応募作品、受賞作品が目を引いた。
その中でも、観光庁長官賞を受賞した佐賀嬉野バリアフリーセンターの「嬉野温泉のバリアフリー化は第5段階へ〜民間救急との連携」は、医療機関と協力して障害者、高齢者など一人では入浴困難な人々のサポートをして安心・安全に温浴を健常者同様に楽しむことから、極めて社会性の高い取り組みと高評価を受けた。「第5段階」とは「重篤な方」に対するケアであり、バリアフリーツアーの中でも抜きん出ていた。
田辺市熊野ツーリズムビューローの「聖地・熊野における地域ぐるみの新しい観光モデルへの挑戦」は世界遺産の熊野古道を地元住民・企業との連携と理解のもと保存と継承を進め、多くの来訪者を受け入れる実績を持つ持続的かつ社会性の高い取り組みと評価された。熊野ツーリズムビューローの取り組みは、日本のDMOの中でも「トップランナー」という位置づけを再確認した。
海外領域で選ばれたパラオ政府観光局の「世界発の環境保護誓約『Palau Pledge』の創造」は、海外からの旅行者に対して、自然保護を誓約させることは画期的な施策で、かつ観光地として持続的発展につながる社会性と発展性が評価された。
エコ・ツーリズム、サスティナブル・ツーリズムの見地から高い評価を得たが、レスポンシビリティ・ツーリズム、責任ある観光の一つの形なのではないかと思う。
また、エクセレントパートナー賞に選ばれたフィリピン観光省の「ボラカイ島の復活、ツーリズムの持続的発展に向けて」はボラカイ島への観光客受入停止で自然を蘇らせたことで、社会の持続的発展にツーリズムが果たす役割を示した極めて社会的かつ先進的な取り組みが評価された。
パラオ政府観光局とフィリピン観光省の取り組みも、紙一重で賞が分かれたが、どちらが観光庁長官賞を受賞してもおかしくなかった。ハワイなどもレスポンシビリティ・ツーリズムに取り組んでおり、観光における責任はすべての観光当事者の課題なのだろう。
日本も観光庁が「持続可能な観光指標に関する検討会」を開催して、サスティナブル・ツーリズムに対して取り組み始めているが、世界は具体的に動き出している。オーバー・ツーリズムの課題解決に向けて、責任ある観光に具体性を持って取り組まなくてはならない。
世界の観光関係者がレスポンシビリティ・ツーリズムに真摯に取り組んでいる時に、インフラや人数、消費額だけを追っている姿は恥ずかしい。並行して、「責任ある観光」の施策を打ち出してほしい。(石原)