旅行会社のふりができるか
近代ツーリズムの祖であり、旅行会社の代名詞ともいうべきトーマス・クックが破産した。インターネット、個人旅行の時代に、象徴的なトーマス・クックの破産で、旅行会社の存在がいよいよ問われている。
同社破産の記事を書いた英国BBCニュースは、英国インデペンデント紙で旅行業界を担当するサイモン・コルダー氏のコメントを掲載した。コルダー氏はトーマス・クックについて、「21世紀の用意ができていなかった」と語り、「今は誰でも旅行代理店のふりができる。すべての航空券、世界中のホテルのベッドやレンタカーを自分で探して、自分で手配できる」と、誰でも旅行が手配できる時代の対応ができなかったことを破産要因に挙げた。
英国と日本では国情が違うとは言え、日本もOTAの台頭で、個人旅行はパッケージツアーから個人が航空券・ホテルなどを予約・購入する時代に変わってきている。
同氏のコメントで印象的なのは、「誰でも旅行代理店のふりができる」という点で、言い換えれば「誰でも旅行の手配ができる時代」になったということだろう。
旅行業界は「OTA」の時代ではなく、個人が旅行を手配する時代になったということだ。OTAは手段であって、これから先も、新たなシステムとともにプレイヤーは入れ替わり、利用者がそれを選んでいくようになる。便利な交通手段と宿泊施設があれば、それを手配して自由に旅行する時代になる。旅行の全ては、旅行者が決める時代になった。
今はOTAが便利なので、間に入っているが、航空券とホテルが直接購入できれば、それ自体も必要なくなる。「場貸し」がいなくなれば、さらにコストは下がる。
トーマス・クック破産後、旅行会社の社長さんたちと雑談した。皆さん、自ら旅行を企画・仕入・造成・販売している。「旅行代理店」ではなく、「旅行会社」である。
そうした旅行会社では、有料で「旅行相談料」を徴収することができる。旅行のプロフェッショナルとして、相談に来た顧客に、旅行を提案し、そのための対価として金銭を収受する。
しかし、旅行相談を有料化することは難しいと異口同音に語る。顧客が旅行の情報収集をしやすい時代になっており、旅行会社社員よりも情報収集に長じている顧客もいる。
旅行相談料を有料にすることは、旅行会社の当然な権利だと思う。それも重要だが、安全・安心とともに、個人で手配することが難しい旅行を企画し、催行することが、旅行会社の何よりの強みではないか。
旅行会社のツアーの行程表を見ると、個人でも行けるものが多くある。ツアーで行くほうが効率的なのは間違いないが、個人で行けば、効率的ではなくても、自由度がある。そういう旅行は個人手配に切り替わっていくだろう。
フリープランなどは、個人で手配するよりの安いものがある。これは、旅行会社の利益幅は薄いが、手っ取り早く安いので、こうしたツアーは残るだろう。
例えば、今年のツアーグランプリで受賞したアニメのロケ地巡りのツアーなどは、個人で回るのは難しく、安心・安全面でも旅行会社ツアーに向いている商品だった。最近は、同様の傾向の商品が造成されている。
個人が「旅行代理店のふりをする」ことはできる。航空券とホテル、タビナカツアーをつければ、パッケージツアーに近い行程は出来上がるからだ。
しかし、個人が「旅行会社のふりをする」ことはできない。個人で手配ができない旅行商品を造成することが、旅行会社の強みなのだ。秘境のツアーでなくても造成できる。「できるものなら行ってみろ」の気概のあるツアーの造成を期待したい。(石原)