W杯と観光交流
2019年を振り返る時、ラグビーワールドカップ日本大会の成功は長く語り継がれるだろう。また、同時期に発生した「令和元年台風第19号」による甚大な被害も深く歴史に刻まれる。
初めてのアジア、初めての日本開催のラグビーW杯は、日本代表の活躍と相まって、空前のラグビーブームが日本列島を席巻した。日本代表や各国代表のユニフォームを着た人が街中に溢れた。
W杯に出場する19カ国・地域の人々が日本に押し寄せ、昼間から日本人と一緒にビールを飲みながらラグビー談義をする光景は、まさしくスポーツツーリズム、観光交流の姿だった。
とくに、多くの日本人にとっては「遠い国」であろう南アフリカや英国・イングランドとは違うアイルランド、スコットランド、ウェールズの人々、はたまた南太平洋のサモア、トンガの人々など、初めて接する日本人も多かったのではないか。
東京スタジアムのオーストラリア対ウェールズ戦、静岡エコパスタジアムのオーストラリア対ジョージア戦を観戦した。とくに、静岡の試合では、エコパスタジアム最寄り駅の愛野駅周辺がイベント会場に設定され、オーストラリア、ジョージア、日本の人々で朝から賑わっていた。当日は台風19号襲来前日だったが、地方開催の日本代表戦ではないが、約4万人の観客が詰めかけた。
ラグビーの応援、観戦のために「遠い国」の日本に来てくれた人々が、日本のことを知り、日本での体験を世界に発信する。彼らを迎えた日本の人々がラグビーだけでなく、各国・地域から来日した人々と交流し、その内容を発信する。これほど効果的な観光促進策はないかもしれない。
とくに、首都圏だけでなく、札幌、釜石、熊谷、静岡、豊田、東大阪、神戸、福岡、熊本、大分と地方を巻き込んで、日本全土をラグビーで沸かせた功績は非常に大きい。大会キャッチコピーである「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」は、試合を追うごとに浸透し、大会を大いに盛り上げた。
9月の訪日外国人旅行者数は、韓国から6割近く減少したにもかかわらず、全体数は増加した。ラグビーW杯の開催で、欧米豪を中心に訪日旅行者が増加したことで、韓国からの減少をカバーするどころか、それを上回った。
田端観光庁長官は、「W杯などの大きなイベントを通じて、外国人観光客が日本国内の地域を訪れることが、観光政策において大変意義深い」とコメントしている。
今回、W杯で来日した人々が再び日本を訪問するとともに、彼らを通じて日本に興味を持ち、新たな人々が訪日することを期待する。とくに、首都圏だけでなく、これを契機に日本の地方への訪問を促進することが重要だ。
一方で、ワールドカップに参加した19カ国・地域の人々との交流を通じて、今度は日本人がこうした国々・地域に興味を持ち、訪問することを期待する。
例えば、南アフリカは「遠い国」のように見えるが、香港経由で行けば約17時間で行ける。直行便はなくとも、中東の航空会社をはじめ経由便はたくさんある。ウェールズ、スコットランド、アイルランドもワンスットで訪問できる。
訪日のスポーツ・ビッグイベントは、2019ラグビーW杯から2020東京五輪・パラリンピックへと続く。さらに多くの外国人が日本を訪問する。ラグビーW杯以上の訪日スポーツイベントにしたい。
そして、次のラグビーW杯は2023年、次のオリンピック・パラリンピックは2024年、いずれも開催国はフランスである。今度は日本人がフランスに行かなくてはならない。
試合観戦とともに、ラグビーではフランスの地方へ行って、フランスや相手国・地域の人々と交流する、オリンピック・パラリンピックではパリや周辺地域へ行って、フランスを体験する。ラグビーW杯日本大会の成功が、スポーツを通じた観光交流の本格的な幕開けとなることを期待したい。(石原)