ツーリズムEXPOの課題
初めての大阪・関西の開催となった「ツーリズムEXPOジャパン2019」が閉幕した。主催者発表によると、今年の来場者数(速報値)は4日間合計で、当初想定した13万人を大きく上回る15万人を記録した。内訳は、業界日が4万8000人、一般日が10万2000人。商談会の件数は前年比13%増の8392件に達したという。
この数字を見ると成功に思えるが、本当の成果は、商談会でどれだけの海外・訪日・国内旅行の成約ができ、来場者のうちどれだけの人が海外・国内を旅行するかで決まる。それを見極めることが、このイベントが将来に向けて成功するか否かの鍵を握る。
観光大臣会合の成功
まず、ツーリズムEXPOをB2Bのイベントとして見ていこう。ハイアットリージェンシー大阪で開幕したツーリズムEXPOの最大の目玉は、年を追うごとに大きくなった「観光大臣会合」だった。今年はこのイベントのあとに、「G20観光大臣会合」が控えていただけに、両方に出席する観光大臣も多かったが、より具体的にツーリズムと地域活性化の意見交換は実り多かったのではないかと思う。
ツーリズムEXPOの観光大臣会合は19カ国の観光大臣と観光団体の代表が参加し、各国の観光政策の現状と地域活性化への取組みが具体的で分かりやすかった。アニータ・メンディラッタ氏の司会進行が上手いこともあるが、これだけ多くの発言者がいる中で、それぞれが時間通りに考えを話し、意見を交わしたことは評価できる。
ツーリズムEXPOの観光大臣会合について、「アジェンダがない」という指摘もあるが、すでに、当初からSDGsに則って会議が行われており、今回は「人と文化による地域活性化」の統一したテーマで議論が行われた。その意味では、UNWTO(国連世界観光機関)との共催による観光大臣会合は、同種の会合の中では最も先行していると思う。
各国観光大臣の意見を受けて、最後にUNWTOのズラブ・ポロリカシュヴィリ事務局長が、来年は「ルーラル・ツーリズムを発表したい。これをいかに開発するか。来年の会合では、ルーラル・ツーリズムを考える。いかに地域や新しい観光地でイノベーションを起こすかが課題だ」と語った。
ポロリカシュヴィリ事務局長のこの発言が次回のテーマとなり、来年の観光大臣会合では、「田舎」の観光で地域活性化させる「ルーラル・ツーリズム」の議論を深めていくことになるだろう。ツーリズムEXPOの中で、観光大臣会合の存在はますます大きくなるだろう。
アワードに見る「観光の責任」
5回目を迎えたジャパン・ツーリズム・アワードは、大きな転換期を迎えたように思う。持続可能な発展に向けて、観光の果たす役割が問われている中で、観光の責任は重い。そのことが、ジャパン・ツーリズム・アワードにも現れた。観光庁長官賞を受賞したパラオ政府観光局の「世界初の環境保護誓約 Palau Pledge パラオプレッジ(誓約)の創造」と、エクセレントパートナー賞を受賞したフィリピン観光局の「ホラカイ島の復活 ツーリズムの持続的発展に向けて」は、「責任ある観光」の象徴で、こうした取組は日本を含めて世界的潮流となっていく。
ただ、本保芳明審査委員長が指摘とした通り、ツーリズムの質と量は拡大しているものの、応募総数が減少傾向にあり、顕彰事業に反映されていないことが残念であり、応募を拡大して、ジャパン・ツーリズム・アワードの価値を更に高めていくことが求められる。
業界日と一般日の差別化を
ツーリズムEXPOの業界日には、主催者発表では業界関係者が4万800人参加した。全体を見て、業界日に関する課題は多いという印象をつ強く持った。
業界日というのは、言うまでもなくB2Bであり、その目的は商談や業界セミナーということになる。ただ、見た印象は一般日のB2Cと構造が変わらないということだった。B2Bのイベントにパフォーマンスや催し物は必要ない。ダンスや音楽、鐘や太鼓は騒音にしかならない。セミナーの開催中に騒音まがいの歌や踊りが流れてくるなど本末転倒だ。
一方で、日本政府観光局(JNTO)が主催するVJTMは、インテックス大阪会場の中で、6号館の階上部で、出展会場とは完全に遮断された状態で、理路整然と商談が行われていた。そこに、お祭り気分の入る余地は全くなく、まさしく商談会だった。VJTMのような商談会をツーリズムEXPOの中で、どうやって組み込むか。
これまで、ツーリズムEXPOの課題として、「B2Bの強化」が言われてきた。そのために商談会やネットワーキングを強化してきた。この部分は、ツーリズムEXPOを構成する上で、最も重要な部分であり、改善を促したい。
シンポジウムに改善の余地
ツーリズムEXPOジャパン・大阪で、テーマ別シンポジウムは、「デジタル・マーケティング」「海外旅行」「エンターテインメント」の3つが開催された。それぞれの取組は分かったが、議論が深まらなかったのは残念だった。
デジタル・マーケティング・シンポジウムは、登壇者の取組はよく分かった。だが、参加者に何を伝えたいのかがよく分からない。デジタルを活用しないと乗り遅れるのはよく分かる。しかし、参考になる事例は少なかった。
海外旅行シンポジウムは、テーマの「インバウンド4000万人時代の海外旅行市場はどうなる?」だった。双方交流促進の中で、海外旅行2000万人から2500万人、3000万人へ伸ばしていくための課題を議論をもっとしてほしかった。海外旅行を拡大するには供給がネックになる。その上で、関西3空港、羽田・成田、地方空港などの役割について語ってほしかった。
エンターテイメントシンポジウムは、エンターテインメントと地域の関係がテーマだった。テーマは興味深いものだったが、テーマと登壇者がミスマッチだったのではないか。韓国の事例と伊賀市の取組は参考になるが、宝塚歌劇団や吉本興業の取組は、エンターテインメントを地域の起爆剤とする上で、参考事例とするのは難しい。地域DMOをパネリストとして参加させてほしかった。
ジャパンナイトはできないか
業界日のウェルカム・レセプションは、インテックス大阪内で開催された。東京国立博物館を貸し切り、日本橋の一般通りにねぶたを登場させた「ジャパンナイト」と比べると、寂しい感は否めない。
訪米・国内旅行のトラベルトレードショー「IPW」は6000人規模だが、オープニングナイトやフィナーレ・レセプションは、ディズニーランドやユニーバサル・スタジオなどのテーマパークや博物館を貸し切って行われる。ツーリズムEXPOジャパンの規模なら、USJや大阪城などの利用も可能と思うが、「OSAKA NIGHT」が開催できなかったのは残念だった。
来場者の海外旅行促進を
ツーリズムEXPOジャパン大阪・関西には、多くの来場者が詰めかけた。一般日には、会場の大きさに差はあるが、東京ビッグサイトよりも来場者の密度は濃かったようだ。
とくに、来場者のパンフレットやギブアウェイの持ち帰ろうとする意欲は東京の比ではなく、ワンコイン(500円)の来場で、それ以上のものを持ち帰る「商魂」を十分に感じさせた。
だが、出展者から見ると、業界日に商談会やネットワーキングを拡大、一般日に来場者へ旅行促進を図ることが出展の目的であるはずで、ツーリズムEXPOがイベント化してしまうと出展する意味がなくなる。実際に出展を見合わせる観光局も出てきている。
観光局によると、ある程度のブースを出展するには2000〜3000万円の費用が掛かる。それに見合うだけの効果を本局に説明することが年々難しくなっているという。来年の沖縄と青海の開催では、出展者に丁寧な説明が求められる。
東京と地方の交互開催を期待
今回のツーリズムEXPOジャパン大阪・関西は、地元経済界の協力があって開催された。田川JATA会長も指摘していたが、今後のツーリズムEXPOは、東京を含めて地元経済団体との協力が不可欠となろう。
その上で、2021年、22年の東京開催の後は、地方開催を視野に入れるべきではないかと思う。ツーリズムの最大のテーマは、「持続可能な成長へ観光の果たす役割と責任、地方活性化」と考える。訪日旅行の地方への誘客、地方からの海外旅行の促進が大きな課題となる。
そのためには、ツーリズムEXPOジャパンを2021年の東京以降は、地方の主要都市と東京を交互に開催したらどうか。今後は来場者数にあまりこだわらず、商談会の成約数、旅行者数、旅行取扱額、旅行消費額、観光従事者数などの経済効果で判断するべきだ。(石原)